2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J10209
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
垣中 健志 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 長屋王家木簡 / 正倉院文書 / 朝野群載 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は様々な学会に参加して、自身の研究の方向性を考えるとともに、報告の機会を与えられたことで、これまでに考えていた自身の研究成果の一部を発表することができた。歴史学研究会などが共催するサマーセミナーにおいて、長屋王家木簡と正倉院文書に関する報告を行い、全国の研究者と有意義な議論をすることができた。さらに、続日本紀研究会の例会にも4回出席し、そのうち1回は長屋王家木簡に関する報告を行い、例会参加者と議論を交わすことができた。長屋王家木簡と正倉院文書を利用したこれらの報告では、主に長屋王家を題材として、王族・貴族の経済基盤の運営とその構造を明らかにすることができた。このように、従来は時間などの都合で参加することができなかった遠方の学会に参加し、自身で報告もすることで、参加した人たちから様々なご意見、知見を得ることができた。2014年9月に出雲で行われた木簡学会特別研究集会では、古代山陰道の木簡を実見するとともに、最新の木簡研究の状況や出土文字史料を利用した古代史研究の方法について触れることができた。2014年10月に大阪で開催された正倉院文書研究会では正倉院文書研究の最先端の成果に触れることができ、天皇家の経済基盤の運営についても視野に入れていく必要性を感じた。2015年3月に奈良で開催された条里・古代都市研究会大会では現地の景観や地勢の復原についての方法論を学ぶことができ、今後の研究に取り込むべき視点を見つけることができた。2014年5月に東京で開催された東方学者会議では天聖令研究の現状について学ぶべき点が多く、同時に中国の研究動向を知ることができた。その他にも、東京大学内で行われている古代史研究会や律令制研究会などで報告する機会を与えられ、多くの研究者と有意義な議論を交えることができた。学内の研究会である朝野群載研究会での成果が2015年度に公表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は種々の報告書などから木簡などの出土資料を中心に史料の精読を行った。特に、課題としていた長屋王家・二条大路木簡に関しては一通り整理を終えることができた。また、全国の博物館などに所蔵されている資料を実見する機会にも恵まれた。具体的には、奈良文化財研究所において開催されていた「地下の正倉院」展において、平城京や平城宮で発掘された貴重な木簡を実見するとともに、木簡研究の現状と課題について考えを深めることができた。また、2014年9月に行われた木簡学会特別研究集会において、島根県と鳥取県を中心とした古代山陰道の木簡を実見し、あわせてシンポジウムにおいて最新の研究動向を確認し、実見した木簡が出土した現地の遺跡の巡検を行った。他にも、安土城考古博物館において滋賀県で発見された木簡を実見し、特に平安時代の木簡で封戸から都の貴族への物資輸送に関するものが注意をひいた。 出土文字史料の整理や実見を行うとともに、諸種の古代史料の舞台となっていた現地の遺跡を見学することも行った。滋賀県では近江大津宮や近江国府・国分寺の遺跡を見学するとともに、正倉院文書にみえる東大寺の封戸があった愛知郡を巡検し、文書にみえる地域の現状を確認した。広島県の備後国域では、備後国府・国分寺の遺跡を見学するとともに、長屋王家木簡にみえる氷高内親王の経済基盤があったと考えられる芦田郡の現地調査を行い、木簡に記載された郷の推定を試みた。他にも、東大寺大仏建立の際に託宣のあった宇佐八幡宮の八幡神が入京した経路を確認するために、宇佐八幡宮から山口県の周防国域にある遠石八幡宮、広島県の御調八幡宮を相次いで見学した。 このように、本年度は基本的な史資料の整理、検討を行い、一定程度の見通しを立てることができた。あわせて、博物館を見学する機会も多く、研究成果の発信についても大いに理解が深まった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に報告した長屋王家木簡と正倉院文書から見た王族・貴族の経済基盤の運営と構造についての研究成果をまとめて論文を作成し、学術雑誌に投稿することを目標とする。長屋王家の経済基盤の構造については、律令制との関係に留意した研究を現在用意しているので、学内外いずれかの研究会で報告した後、その成果を公表する。また、修士論文で得られた知見を学会やセミナー、シンポジウムなどの場で発表し、論文としてその成果を公表する。昨年度行った平城京を中心とする全国各地の木簡などの出土文字資料とその地域の歴史的背景に関する検討を継続して行い、得られた知見を体系的にまとめるとともに、論文執筆に活かしていけるようにする。唐令と日本令の比較検討の成果を律令制研究会などの場で報告することで、さらに日唐間の王族・貴族の立場、家産の性格などの差異についてさらに検討を深めていく。同様に、ミヤケ・ミタなど大化前代の王族・貴族の家産の経営形態についても論文作成を行い、雑誌などに公表する。これらの論文作成を通して、博士論文執筆に向けての準備を行い、公表した論文などを基にして博士論文の執筆につなげていきたい。また、同年代の若手研究者との交流を行い、日本古代史はもちろんであるが他の分野で活躍する同世代の研究者との交流を通じて、自身の研究成果や日本古代史、日本史を含む人文科学分野の現状や研究成果の社会への公開方法を模索し、博物館などにおいて企画展示に携わることを目指す。あわせて、様々な活動を通じて得られた成果を一般向けに公表する準備をする。博物館や大学において、小中学生などに対して人文科学研究の素晴らしさを、交流などを通じて伝えていくことも行っていきたい。
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