2014 Fiscal Year Annual Research Report
モデル微生物を用いた縞状組織形成実験によるストロマトライトの生物起源性の検証
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14J10363
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
奥村 知世 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋地球生命史研究分野, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ストロマトライト / シアノバクテリア / 化学合成細菌 / 温泉 / 深海 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず,ストロマトライトの成因に関する研究のレビューを行い,8月の地団研総会の招待講演および,地球科学特別号の総説として公表した.それと並行し,1.インドネシアスマトラ島北部のSipoholonと Dolok Tinngi Rajaの2箇所の温泉と,2.深海の湧水から沈殿するブルーサイト・炭酸塩チムニーのケーススタディーを進めながら,3.大分県長湯温泉での組織形成実験の予備調査を行った. 1.インドネシアの温泉:調査を行った高温で硫化水素に富むインドネシアスマトラ島北部の2温泉にストロマトライト組織が発達することを見出した.これまで,温泉で発達するストロマトライトは,シアノバクテリアと好気呼吸を行う従属栄養細菌から構成される微生物マットの関与で作られることが知られていたが,今回調査を行った2箇所の温泉では,硫黄酸化細菌という化学合成菌が優先する場所でも条件が整うとストロマトライト組織を発達させることが新たに示唆された. 2.深海チムニー:2013年に南部マリアナの深海蛇紋岩湧水サイトで採集された炭酸塩とブルーサイトから構成されるチムニー試料を利用できる機会が得られ,組織の観察を行ったところ,チムニーの内部に局所的にストロマトライト組織が発達することを確認した.微生物と組織の関係性を調べるため,7月末から予定されていた研究航海に参加し,試料を採集した. 3.組織形成実験:太古のストロマトライトに酷似したストロマトライト組織が発達する大分県長湯温泉において,流路の一部に日光を遮断する囲いを設置し,組織形成実験のための予備調査を行った.その結果,夜間に形成される結晶質層が連続的に形成されるのではなく,有機物がまばらに分布する組織が形成されていた.これは,光を遮ることで,光合成に支えられた微生物群衆構造が変化し,バイオフィルムの分布状態も変化したためであると推定される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでストロマトライトは,太陽光が届く環境でシアノバクテリアを主体とする微生物マットが分布する環境を中心に報告されてきた.しかし,化石ストロマトライト試料の中でも,大気中の酸素濃度が急上昇した約24億年より古い時代や,深海の堆積相に存在するものは,シアノバクテリアの関与が疑問視されている.初年度に行った温泉及び深海湧水でのケーススタディーでは,化学合成細菌が関与するストロマトライトの形成の可能性を示唆する結果を得ることができた.ストロマトライトはしばしばシアノバクテリアの化石と扱われることがあるが,これらの試料の成因を明らかにすることで,化石ストロマトライト試料の解釈を大きく転換させることにつながると言える.また,特に深海チムニーは,蛇紋岩化反応に伴う水素やメタンが豊富な流体から沈殿していると考えられ,そこに分布する微生物群衆は,無機的な岩石―水反応に支えられた生態系であると考えられている.このような生態系は,初期の地球のみならず,火星や木星の衛星でも生じうる可能性があると考えられている.深海チムニーを通して,初期地球や太陽系で普遍的に生じる微生物生態系の様子を地質試料から検討可能になると期待できる. 一方,組織合成実験に関しては,実験で検証する微生物の作用を変更する必要性が生じた.本研究の計画当初は,シアノバクテリアと好気性従属栄養細菌をモデル微生物として,ストロマトライトの組織合成実験を行うことを想定していたが,化学合成細菌も検討することでより普遍的なストロマトライトの形成システムが理解できると期待される.また,初年度の予備実験では,ストロマトライトを作る環境―微生物システムがより複雑で,環境条件を細かくコントロールできる実験系に改良する課題を認識した. 以上のように,新たな展開と課題を認識することができたため,初年度は上記の評価とした.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,まずインドネシアの温泉成ストロマトライトと,南部マリアナ海淵の深海炭酸塩チムニーの解析を優先させて進めていく. インドネシアの温泉の現地調査及び試料採集は初年度に行った.2年度目は採集した試料の組織観察や微生物解析を進め,速やかに結果を学術論文にまとめ発表を目指す. 南部マリアナ海淵の深海炭酸塩チムニーは,平成25年の調査航海で初めて発見され,蛇紋岩流体から沈殿していると推測されている.ここでは,水素やメタン・硫化水素を代謝する化学合成細菌が一次生産を担う微生物群衆が分布していると推測できる.過去に2回の調査航海が行われているが,海底で目視できない冷湧水の採集は未だ成功していない.2年度目は,初年度に引き続き,過去に採集されたチムニー試料の堆積組織の記載と内部に分布する微生物系統解析を行い,チムニー内部でストロマトライト組織が発達する条件を検討する.また,7月に予定されている調査航海に参加し,マッピングや湧水採集に重きを置いた試料採集を試みる. これらと並行して,温泉堆積場で行う組織形成実験のための水路の改良を行う.初年度に行った予備調査では,流速条件とバイオフィルムの分布をより細かく制御できる水路でないと,目的の組織が合成できないことが明らかになった.平成27年度は,合成実験に使用する水路を改良する.また,計画当初は,シアノバクテリアと従属栄養細菌をモデル微生物として,ストロマトライトの組織形成に関わる生物要因を検討する予定であったが,インドネシアの温泉と深海チムニーの発見により,化学合成細菌の作るストロマトライトも検討する必要性が生じた.組織合成実験に関しては,上記のケーススタディーの結果を反映しつつ,ストロマトライトを作る普遍的な微生物プロセスを検討し,太古試料の生物起源性を評価するための組織的・化学的指標の確立につなげる予定である.
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Research Products
(5 results)