2014 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ伝導材料における熱コンダクタンスについての理論的研究
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14J10561
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畑 智行 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 熱工学 / フォノン / 非平衡輸送現象 / ナノ構造体 / 熱電変換材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的である,ナノスケール複合構造における熱伝導率制御の達成には,構造間のカップリングが熱物性に与える影響を評価することが重要である.有機分子を含む構造では,分子間相互作用の影響が特に重要だと考え,まずはその理解を試みた.研究対象として,多層カーボンナノチューブに注目した.カーボンナノチューブの熱物性は比熱を中心に議論されており,積層構造に依存して温度依存性の次数が変化することで知られている.計算モデルには,二層カーボンナノチューブ(DWCNT)を採用した.熱伝導率は,開発した非平衡Green関数(NEGF)法に基づくプログラムと古典力場を用いて計算を行った.また,DWCNTの熱伝導率,及びその温度依存性を,単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と比較した. その結果,層間相互作用による熱伝導率の抑制は低温において顕著であり,また抑制された熱伝導率が外側のSWCNTの結果と一致する傾向が得られた.低温における熱伝導率の抑制は,二層の振動モードがカップルすることで発生した,振動エネルギーのシフトに起因することが確認された.連成振動モデルを用いた解析により,シフトは内外の振動が逆位相にカップルしたモードに起因することを示し,シフト幅を評価する解析式を提案した.また,解析式により,低温で励起されるモードのエネルギーが,外側のSWCNTの物性により決定されることが明らかとなった.これは,計算結果を説明するとともに,多層構造の熱物性が外側の層の構造制御により調整できる可能性を示している. 以上の成果を論文として発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノ構造の熱物性を制御する上で分子間力に注目し,熱伝導率と構造との相関を示す解析的な式を提案した.これにより,秩序がある構造の熱物性制御において,部分構造とそのカップリングから振動を解析し重要な構造因子を抽出する,という方針が有意であることを確認できた.この格子動力学に基づく方針を,水素結合やイオン結合などの相互作用を介してカップルしているナノ構造に対しても適用することで,より幅広い複合構造の熱物性制御につながると考えられる.以降は,有機無機複合材料の熱物性の予測と制御を,上記の観点から目指す. また,熱物性の定量的な予測には非調和振動の考慮が重要であり,今後の研究課題である.第一原理計算と摂動論に基づく計算を想定していたが,部分構造間のカップリングが与える影響との相関や,系のスケールアップを考慮し,計算手法を再考した.今後は,振動間のカップリングを部分構造間と部分構造内に分割し,部分構造内の非調和振動の影響は分子動力学的手法で考察を行う予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
熱物性に対する非調和項依存性の研究において,有限温度の熱物性においては高次の非調和項も寄与することが報告された.これら高次の項はNEGF法の中で取り扱う摂動としての範疇を超えている.そのため,非調和振動の影響を評価する際には,非平衡分子動力学(NEMD)計算を用いることとする.NEMD計算には力場が必要となるが,第一原理分子動力学計算をトレーニングセットとしてフィッティングを行い,高次の非調和項を含めた高精度の力場を作成する手法が提案されため,この方法を採用する. 力場を作成する際,既存の方法ではポテンシャルエネルギーのTaylor展開をフィッティング対象としている.この関数系は,高次項による精度上昇が厳密に保証されている一方で,原子の絶対位置を含んでいるため一般性に乏しく,欠陥や界面などの構造依存性を評価する上で難がある.そのため,フィッティング対象を内部自由度についての力場を高次に拡張したものに置き換える.今後は,金属-SAMs界面や有機―無機ペロブスカイトなどの有機無機複合系に対して力場の構築を行い,熱物性を評価することを目標とする.
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Remarks |
上記のwebページは,東京理科大学/工学部教養/大学院工学研究科電気工学専攻 物性理論研究室(山本貴博研究室)において,セミナーを行った際の講演概要である.
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Research Products
(5 results)