2015 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ伝導材料における熱コンダクタンスについての理論的研究
Project/Area Number |
14J10561
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畑 智行 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 熱伝導物性 / 熱電変換材料 / 有機無機ペロブスカイト / 古典力場 / フィッティング / 振動状態解析 / フォノンバンド |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年までの研究で,低次元熱伝導材料を中心に議論することにより,制御可能な熱物性を持つ材料に対する指針を得てきた.本年度は,その指針と適合する研究対象として,三次元的な有機無機複合材料を取り上げる.三次元的な複合構造では,振動系同士の相互作用する表面積が増大することが予想され,また有機無機の複合を考えることで,質量の大きい無機系の振動を基準に材料設計が可能だと考えられる.本研究では,有機無機複合構造として有機無機ペロブスカイト,なかでもCH3NH3PbI3 (MAPI)に注目した. 複雑で重金属を含むMAPIについて,第一原理的な熱物性解析を行うことはリソースの問題から困難であるが,現在MAPIの経験的なポテンシャルはほとんど報告されておらず,特に振動に関して信頼性のあるポテンシャルは存在しない.そこで本研究では,第一原理分子動力学計算から得られた構造と各原子に働く力をトレーニングセットとしてポテンシャル関数にフィッティングすることで,MAPIの経験的な力場開発を行った. 作成したポテンシャルを用いた熱伝導率計算を行った.MAPIでは非常に弱いPb-I結合から,非調和振動の強い寄与が考えられたため,その再現に適した非平衡分子動力学計算を用いた.得られた結果は絶対値,温度依存性ともに実験結果をよく再現することから,ポテンシャルの妥当性が確認できた.どのような振動同士が強くカップルしているかについて調べるため,モデルを用いた解析や振動状態密度の計算を行った.その結果,MAPIにおける熱伝導物性の抑制は,分子振動のカップリングを介し,格子振動同士が相互作用することに起因していることが明らかとなった.本研究における考察は,内包された有機分子の対称性や自由度を調整することで,系の熱物性が制御できる可能性を示唆しており,以上の研究成果を論文として発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年,実績報告書における研究方策に示した通り,昨年度は以下の三点を目標に研究を進めてきた.1)第一原理分子動力学計算をトレーニングセットとしてフィッティングを行う.2)フィッティング手法の改善を行う.3)有機無機複合材料に,改善した手法を適用することで,熱物性の評価と解析を行う.本報告書における研究実績の概要に示した通り,以上の研究方策は有機無機ペロブスカイトを対象として大部分達成しているほか,論文としても報告が完了しており,その有意性を十分に示すことができたと考える. 特に,力場作成においては既存の内部自由度基準の力場関数を修正することで,結晶系においても高精度を維持したポテンシャルを作成する方法論を提示することができ,学会等での受賞による評価を受けている.また,本年度より導入した分子動力学的手法による熱物性解析を格子動力学計算と組み合わせることで,既存の手法では考慮の困難であった,無機格子の格子振動と,有機分子の内部振動とを同時に取り扱う手法を提案することで,考察に踏み込むことができた. 以上より,昨年度の研究はおおむね順調に進展していると考える. 一方で,昨年度の研究を通して,作成した力場の可搬性が乏しいという問題が顕在化してきた.また,現在では経験的に計算している非結合力の寄与に関しても,その精度を改善する方法が必要であり,これらは本年度の研究における課題である.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究で,有機無機複合構造においても適用可能な,高精度力場の作成方法の開発を,おおむね完了した.本年度はその手法を応用し,様々な複合構造,特に有機無機ペロブスカイト構造に対して適用することにより,より一般的な熱物性の複合構造依存性を調査する.具体的には,内包されている有機分子カチオンを,分子の運動自由度や対称性の観点から変更するほか,ハロゲン置換等の影響についても考慮する.最終的には,材料の熱物性制御へ向けた実用的な設計指針の提示を目指す, また,現在までの進捗状況で述べた二つの問題に関しても,改善を行う. 第一に,作成する力場の可搬性について,その改善を試みる.現在の作成手法は,特定の構造に関して行った第一原理分子動力学計算のみをトレーニングセットとしており,他の類似構造に対する可搬性の考慮には至っていない.本年度の研究では,この問題を解決するため,類似構造を含めたトレーニングセットから,類似構造の一部の力場関数を可搬的なものに置き換えることを試みる.例えば,無機格子は共通で,内包有機分子カチオンが異なる構造を複数用意し,力場関数のフィッティングを行うことで,無機格子に共通する力場の作成を試みる. 第二に,現在は第一原理計算の結果や経験値を用いて計算を行っている非結合力の寄与に関しても,フィッティングによるパラメーター作成を試みる.これらの項は,非線形的であり線形フィッティングを行うことが困難であるため,非線形フィッティングや遺伝的アルゴリズムを用いることで対処を行う. 最終的には,可搬性と非結合力を含めた精度が両立した力場作成手法を確立し,幅広い材料探索に適用可能な方法論として発表することを目標とする.
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Research Products
(7 results)