2014 Fiscal Year Annual Research Report
解釈の抽象度に応じた対人認知の変動メカニズムの解明
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14J11046
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 言 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 解釈レベル / 抽象化 / 対人認知 / 道徳認知 / 共感 / 利他性 / 社会心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
私たちが何かについて考えるとき、細部に着目し対象を具体的に解釈する(「木を見る」)こともあれば、全体像に着目し対象を抽象的に解釈する(「森を見る」)こともあるだろう。人間は抽象的解釈と具体的解釈の間を行き来しつつ自らの認知・行動を制御している。本研究では、「木を見たり森を見たりする」ことに応じて、他者を理解する経験(対人認知)がいかに変動するかを検討してきた。2014年度の成果は以下の通りである。 1.抽象的(具体的)解釈が共感を促進する条件を特定した報告者のこれまでの研究に対して批判的再検討を行い信頼性と妥当性を確認した。具体的には、従来とは異なる実験的操作手法を用いて解釈の抽象度を操作した際にも、報告者の理論的予測が成立することを確認した。 2.共感ではなく道徳認知という対人認知における変数を扱い、解釈の抽象度に応じて道徳認知がいかに変動するかを検討し、報告者が構築したモデルの一般化可能性を確認した。 3.報告者はこれまで主に共感について研究を行ってきたが、解釈の抽象度が人々の実際の利他的行動に与える影響についても実験的に検討を行った。その結果、解釈の抽象度に応じて利他的行動が変化する条件の一部を特定した。 4.解釈の抽象度を生み出し支える基礎的な心理学的メカニズムについて、認知心理学的手法を用いて検討を行った。その結果、大局的注意(局所的注意)、カテゴリー認知(エグゼンプラー認知)、遠い(近い)距離認知の間に一定の関係が認められることを実験的に示した。 5.解釈の抽象度が対人認知を変動させるプロセスを、人々の日常生活のレベルにおいて検討した。具体的には、経験サンプリング法と呼ばれる手法を用いて、人々が日常生活の中で他者を認知する際に、解釈の抽象度がどのような働きをしているかについて検討を行った。この研究から得られたデータについては、現在解析を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の実験や調査を行い精力的にデータの収集を行い、解釈の抽象度が対人認知を変動させるメカニズムの解明を進めてきた。仮説と合致する複数の実証的知見が得られた一方で、細部では矛盾する知見も得られ、その中に一貫性を見いだす必要が生じ、改めて理論的背景を整理する必要性が生じた。理論的再考を通じて、これまで検討してこなかった新たな調整変数の役割について検討が必要であることが明らかになった。以上の点を踏まえ、「おおむね順調に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究の推進方策として、以下の3点が挙げられる。1.理論的背景の再整理を通じて検討する必要が生じた点について、実験や調査を通じて新たに実証的検討を加える。2.これまで得られた知見を、社会的に実践的に役立てるための応用可能性を検討する研究を行う。3.これまで得られた知見の中で一貫している要素を統合し、統一的な理論として記述する。
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Research Products
(3 results)