2015 Fiscal Year Annual Research Report
UPF1依存的な新規RNA分解を介したmRNAの量的制御及びその生理機能の解明
Project/Area Number |
14J11190
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今町 直登 東京大学, 大学院薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | RNA分解 / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度では、UPF1を介したRNA分解機構の破綻がもたらす疾患について解析を行った。具体的には、DMPK mRNAの3’UTR配列中に見られるCUGリピートの過伸長によって引き起こされる1型筋ジストロフィー症に着目した。この疾患では、CUGリピートの過伸長を起こしたmRNAが核内で凝集することがわかっている。このことから、1型筋ジストロフィー症の患者では、CUGを含むGC-richな配列を標的とするUPF1が上記のCUGリピートにトラップされ、UPF1を介したRNA分解経路が抑制されているのではないかと仮説を立てた。 まず、DMPK mRNAの3’UTR配列中でCUGリピートの過伸長を起こしている1型筋ジストロフィー症を発症している患者でUPF1の標的遺伝子の発現量が上昇しているかどうか確認を行った。その結果、罹患者では、他の遺伝子と比較してUPF1の標的mRNAの発現量が統計的に有意に上昇していることがわかった。このことから、1型筋ジストロフィー症の患者では、UPF1を介したRNA分解経路が抑制されることにより、UPF1の標的mRNA群の発現量が増加しているのではないかと考えた。次に、過伸長を起こしたCUGリピートを含むmRNAをHeLa細胞で強制発現させたとき、UPF1の標的mRNA群の発現量が増加するかどうか確認した。qPCR法によりUPF1の標的mRNAの発現量を調べた結果、CUGリピートを含むmRNAを強制発現させたときにUPF1の標的mRNA(ナンセンス変異を持つ異常なmRNAも含む)の発現量の増加は見られないことがわかった。このことから、本研究において、1型筋ジストロフィー症においてUPF1を介したRNA分解経路の破綻は起きていないと結論づけた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題の当初研究目的の達成度については、期待した結果が得られなかった。 昨年度では、これまでに明らかとしたUPF1を介したRNA分解経路が破綻した時に引き起こされる疾患について解析を試みた。しかしながら、UPF1を介したRNA分解経路と着目した疾患との関係を実証するに至らなかった。現在、昨年度までに得られた結果をもとに、論文を作成し、国際誌に投稿中である。 上記の点から、研究の到達度として期待した結果が得られなかったと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度までで、これまでに得られた結果をもとに、申請した研究課題については論文としてまとめて発表する予定である。本年度では申請した研究課題に関連する新しい研究に取り組むことを計画している。 3’UTR領域にはmicroRNAやRNA結合タンパク質(RBP)、UPF1を含むRNAヘリカーゼの結合するモチーフ配列が多数存在しており、RNAに結合するこれらの因子の働きによりRNAの分解制御や翻訳制御などが行われている。このことから、3’UTRの領域は転写後における遺伝子発現制御の「場」として重要な役割を果たしている。 3’UTR領域には複数のポリアデニル化部位が存在しており、認識される部位が変わることで3’UTR長が変化する(選択的ポリアデニル化)。一般的に、長い3’UTR配列を持つmRNAはRNAの分解速度が早く不安定であることが知られている。これは、短い3’UTRを持つmRNAよりも長い3’UTR配列を持つmRNAでは、RBPやmicroRNAが結合するモチーフ配列が多く存在し、RNAとして不安定であるからである。このことから、選択的ポリアデニル化は転写後制御を介して、生理機能の調節の重要な役割を担っていると考えられており、その制御機能の破綻は癌をはじめとした疾患を誘導することが示唆されている。しかし、選択的ポリアデニル化を介した制御機構をゲノムワイドに解析した例はほとんどない。 本年度では、The Cancer Genome Atlas (TCGA)、ENCODEのデータを活用し、さまざまな癌・正常組織における各遺伝子(mRNA)での選択的ポリアデニル化のパターンを網羅的に解析することを目的とする。そこから、選択的ポリアデニル化を介した3’UTR長の変化が、転写後調節を介して組織特異的な遺伝子発現制御や癌をはじめとする疾患の誘発にどのように関わっているのかを明らかにする。
|