2014 Fiscal Year Annual Research Report
ジャンケレヴィッチ郷愁論の体系化--過去の尊厳と悪の問題はいかに両立しうるのか
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14J11214
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
奥堀 亜紀子 神戸大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | フランス現代思想 / 郷愁 / 記憶 / 喪の作業 / 赦しの問題 / 死者論 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
第73回日本哲学会一般研究発表で「ジャンケレヴィッチの郷愁論における《quod》」と題した研究発表を行った。この発表では、『不可逆的なものと郷愁』における郷愁論を構築した。本発表の成果は、彼の形而上学や彼の音楽論の一部として論じられてきた郷愁概念を郷愁論として提示した点である。特に、彼の形而上学の中心概念quodを郷愁の対象とみなし、それを経験的次元と超経験的次元あるいは象徴的次元に区別した点は本研究の独自性である。 また、The 5th International Conference: Applied Ethics and Applied Philosophy in East Asiaでは、“The Work of Mourning and Philosophy: A Point of Departure from The Tohoku Earthquake”と題した研究発表を行い、その成果を大連理工大学を通して出版した。この発表では、「どのようにして生者が死者と向き合うことができるのか」という議題を扱った。本発表の成果は、ジャンケレヴィッチの郷愁論において示唆されている〈象徴的なものとなった経験的な過去と生者の関係〉を論じた点である。特に、彼の郷愁論を現代的な場面で語る手法として「喪の作業」を設定した点に、本発表の独自性がある。 さらに、日本宗教学会第73回学術大会で「ジャンケレヴィッチの形而上学―時効になりえぬものに抗して―」と題した研究発表を行った。この発表の一部は「「赦し」とは何か――無条件的な赦しは必要なのか」という題目で『21世紀倫理創成研究』第8号に掲載された。この論文では、「デリダの無条件的な赦しが必要か否か」という点から赦しの問題を扱った。本論文の成果は、ザルカの“Le pardon de l'impardonnable. Derrida en question”を紹介した点である。特に、ザルカのジャンケレヴィッチ赦し論理解を〈人間同士の赦しの可能性〉と解し、さらにその読解を〈ジャンケレヴィッチがラベリンクとの間で交わした赦し〉と関連させて論じた点は本論文の独自性である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特別研究員は、研究プログラムの達成度がおおむね順調に進展していると判断する。というのも、当初の計画の通り、計画していた以下の三点を遂行したからである。
テーマ(1)『不可逆的なものと郷愁』における郷愁論の体系化:このテーマに関しては、同著作内の体系化作業を終え、その成果を発表することができた。(日本哲学会) テーマ(2)『不可逆的なものと郷愁』における郷愁論の再構築:このテーマに関して、現在、特別研究員は、同著作内の体系化をさらにジャンケレヴィッチの哲学全体から再検討するため、イスラエル在住のジョエル・アンセルと情報交換・意見交換をしながらその作業を進めている。また、イスラエルに滞在することにより、ユダヤ・パレスチナ問題の成立、現在の情勢も直接的に見て学ぶことができ、その成果は自身の研究に関与する「赦しの問題」を考察する際にも大いに貢献している。なお、赦しの問題に関しては今年度論文化することができた。 テーマ(3)喪の作業の現場のフィールドワーク:このテーマに関しては、これまでの研究につづき、震災後の東北の課題と思われる「喪の作業」さらに「死者論」の研究を行い、その成果を国外(大連)で発表し、報告書が出版された。また、「【セミナーと講演会】阪神淡路と東日本、二つの大震災の経験から学ぶ震災時のアスベストリスクと心のケアの今後」の打ち合わせに同行することを実現させ、現在の東北における喪の作業の現状について情報を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は今年度の成果を踏まえて、以下の二点の方策によって研究プログラム「ジャンケレヴィッチ郷愁論の体系化――過去の尊厳と悪の問題はいかに両立しうるのか」を推進させる。
①ジャンケレヴィッチ郷愁論に言及した文献を精読しながら、引き続きイスラエルでジョエル・アンセルとともに、ジャンケレヴィッチ形而上学(とりわけ過去の尊厳を守るためにジャンケレヴィッチが行った考察を把握するため)、またジャンケレヴィッチ徳論(とりわけ悪の問題の位置づけを把握するため)に関する情報交換・意見交換を行う。なお、ユダヤ・パレスチナ問題の現状を把握するためのフィールドワークも引き続き行う予定である。帰国後(平成27年9月以降)は、これらの情報をもとに『不可逆的なものと郷愁』における郷愁論を体系化させ、その成果を発表し、文章化し雑誌に投稿する。また、同時に博士論文の執筆にもこれらの成果を加えて検討していく。 ②東北を訪問し、引き続き喪の作業の現状を調査する。その調査結果をもと、今年度行った大連での国際発表報告書内容を日本語に訳して加筆修正を行う。この成果は書籍(共著)として出版する予定である。また、「ジャンケレヴィッチ郷愁論の体系化」に現代的意義を付与するこの試みは、執筆中の博士論文の附論部分に相当する。
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Research Products
(5 results)