2014 Fiscal Year Annual Research Report
大規模企業間ネットワークのシステミックリスク評価とストレステスト手法の確立
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14J11732
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田村 光太郎 東京工業大学, 大学院総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 経済物理学 / 非線形輸送システム / 複雑ネットワーク / 凝集現象 / 相転移現象 / 安定性解析 / 階層構造 / 分岐 |
Outline of Annual Research Achievements |
共同研究企業から提供された企業データのうち、企業間取引ネットワーク上のフローの情報である取引金額のデータに注目した。この取引金額で観測されている 拡張重力型相互作用に注目し、その相互作用がもたらす不平等性について研究した。この相互作用は、ネットワーク上のリンク間に強い不平等性をもたらし、流れの本質を理解する上で、一部の支配的な流れに注目すればよいことが示唆された。この事実をもとにして、ネットワーク上の主要な流れのみを抽出し、複雑 ネットワークから重要なリンクのみを残す変換方法を提唱した。 得られたネットワークは階層性のある木状の構造で、複雑ネットワークの新しい解析手法としての提案や流域面積・階層といった特徴量の提唱をすることができた。また、理論的にも平均場近似を用いることで、もとのネットワークの構造と抽出されたネットワーク構造を関連付けることが可能で、統計的にその特徴を推 察することができる。実務的には、企業間取引において製品の製造系列を抽出することが出来、企業間取引ネットワークのシステミックリスクを定量的に測る方法を提唱したことにより、申請課題の解決に大きく近づくことができた。 また、重力型相互作用をもとにした企業間のお金の流れのモデルに関して、東日本大震災の企業の売上に対する被害推定を行った。このシミュレーションにより、精度よく被害を推定するためにパラメータの精緻な推定が必要な課題であることを認識した。加えて、今年度に着目できなかった拡張重力型相互作用をもとにした拡張重力方程式に関して、理論的側面について解析を進めている。 どちらの側面の研究も企業システムにおける本質が、企業間取引ネットワークの構造にあることが示唆されていて、システムの理解には独立な個々の企業の集合ではなく、そのつながりに注目していく必要が改めて示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
複雑ネットワーク上のリンクが不平等であることに注目し、主要なリンクのみ注目するという視点に加えて、その操作や結果に物理的なダイナミクスと絡めること ができ、さらに理論解析や実務への応用がなされた研究はこれまでにない。同時に、このリンクの不平等性が、さまざまな社会現象で観測されている拡張重力相 互作用に起因していることが分かったことは、拡張重力相互作用に支配される社会システムにおいて、同様の不平等性が観測されることを示唆する。 当該研究におけるリスク評価は企業間取引ネットワークにとどまらず、さまざまな社会システムに対して応用できることが期待される。複雑ネットワーク上にお ける流域面積や階層といった特徴量は、企業間関係を表現するうえで非常に相性がよく、これまで定性的にしか表現されなかったサプライチェーンに内在するリスクを定量化するものとして期待される。 われわれは、拡張重力相互作用をもとにした輸送モデルについても解析を行い、その不安定化する要因をネットワークの構造にあると考えて、理論解析および遷移行列の固有値解析でその傾向をつかんだ。 拡張型重力相互作用という一つの注目点から出発し、ネットワーク構造の抽出とフローのモデル化について、2つの側面から同時平行的に研究を進めることが出来て、研究初年度において当初の計画以上のペースで研究が進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
企業間取引ネットワークに内在するシステミックリスクの評価を行うに当たって、そのネットワーク構造の特徴に注目し、流域や階層といった量でシステミックリ スクを評価することはすでに出来ている。引き続いて取引ネットワーク構造は注目される点ではあるが、それとともに、構造に強く依存するお金の流れにも注視 していく。われわれは、観測した拡張重力相互作用をもとに輸送モデルを構築したが、輸送の起こす相転移の発見したにとどまっている。相転移の特徴を詳細に 知る必要があり、不安定化するサブグラフを見つけ、不安定化する方向のゆらぎを見つける必要がある。このために大規模行列の固有値解析を行うため、理論・数値解析を行うことに重点を置いていく。
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Research Products
(13 results)