2014 Fiscal Year Annual Research Report
ニホンミツバチに固有なオオスズメバチに対する熱殺蜂球形成行動の解発機構の解明
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14J12036
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
宇賀神 篤 玉川大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 新規初期応答遺伝子の解析 / 位置情報記憶の分子機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 新規IEGの網羅的探索 刺激の受容から熱殺蜂球形成の開発に至る神経回路の包括的な解析に際し、神経活動の分子マーカーであるIEGの利用を計画している。10以上のIEGが報告されている脊椎動物とは対照的に、ミツバチを含めた昆虫では3遺伝子に留まっている。より優れた神経活動マーカーの取得を目的とし、ゲノム情報が利用可能なセイヨウミツバチを用い、RNA-seqによる新規IEGの網羅的探索を行った。ミツバチを二酸化炭素中で麻酔した後で空気中で覚醒させる「麻酔覚醒処理」により、神経系に広く神経活動を誘導し、処理直後および30分後の2条件を作成した。代謝等の亢進による遺伝子発現変化の可能性を排除するため2条件ともに脂肪体サンプルも作成した。RNA-seqの結果、「処理直後に対する30分後の発現量が、脳で10倍以上かつ脂肪体で2倍以下」となる遺伝子が新たに14個見出された。これらを新規IEGの候補として優先的に解析を行う。 2. 位置情報記憶の「読み出し」とIEGの関係性の検討 脊椎動物では、IEGの発現上昇が様々な形式の記憶・学習において重要な役割を果たすことが知られているが、昆虫ではミツバチでEgrの発現上昇が記憶の「形成」と関連することが示唆されているが、記憶の「強化」や「読み出し」との関連性は不明である。IEGを効果的に利用するうえで詳細な特性の理解が不可欠と考え、帰巣時に高い視覚依存性を示すクロヤマアリの位置情報記憶を対象に、Egr発現と記憶の「読み出し」との関連性を検証した。帰巣直後に記憶中枢である脳のキノコ体で一過的な発現上昇が確認された。また、帰巣個体を捕獲後に一晩暗所で飼育し、翌日帰巣経路上に放した場合においても、帰巣直後に再度放した際と遜色なく帰巣し、Egrの発現上昇も観察された。Egrの「記憶している風景の読み出し・見えている風景との照合」への寄与を示唆する結果と考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脊椎動物では多数のIEGが知られており、解析対象の領域や刺激の種類に応じて使い分けが為されている。一方昆虫では、kakusei, Egr, Hr38のみの報告に留まっていることから、セイヨウミツバチを対象とし、RNA-seqを利用した網羅的探索を実施した。候補遺伝子も複数得ることができ、本研究項目については当初の研究計画通り進展している。 一方、平成26年度は全国的な異常気象や赤リンダニの蔓延等の影響から、ニホンミツバチ強群の確保・維持に難が生じた。そのため、蜂群に強いストレスのかかる熱殺蜂球形成実験の実施を見合わせた。代わりに、昆虫の脳神経系においてIEGが果たす役割の解明をめざし、アリの視覚依存の位置情報記憶を対象に実験を行い、記憶の「読み出し」とIEG発現の関連性を示唆する結果を得た。脳構造の単純さと意外に高い記憶・学習能力から、昆虫は記憶・学習メカニズムの重要な研究対象となってきた。しかし、その多くが嗅覚関連であり、視覚関連記憶のしくみは不明点が多い。予定外に実施した研究項目であったが、昆虫の視覚記憶メカニズムを議論するうえでも重要な成果と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、得られた新規IEG候補の解析を急ぎたい。様々な感覚刺激受容時や行動時の脳内発現領域の遺伝子ごとの差異、神経伝達物質受容体作動薬の投与時の発現変動パターンを解析し、各候補の特徴付けを行う。また、翻訳産物の軸索や樹状突起への局在が予測されるものについては抗体作成・投射パターン可視化の可能性を検討する。 IEG関連では第二に、帰巣アリを「既知の場所」と「未知の場所」に放した際の脳内のEgr発現パターンの比較を実施する。同一個体を順次二つの場所に放し、それぞれの地点で生じた神経活動の区別した検出法(catFISH法)を試みる。視覚情報が記憶・学習中枢であるキノコ体に直接入力されるハチ目昆虫の特性を活かし、これまであまり着目されてこなかった視覚記憶のメカニズムに迫りたい。 27年度は化学生態学的研究にも力を入れ、熱殺蜂球形成の解発シグナルの絞り込みを行う。そのうえで、IEG関連の成果を適用し、蜂球形成解発に関わる神経回路の同定へと進みたいと考えている。
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Research Products
(3 results)