2015 Fiscal Year Annual Research Report
ニホンミツバチに固有なオオスズメバチに対する熱殺蜂球形成行動の解発機構の解明
Project/Area Number |
14J12036
|
Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
宇賀神 篤 玉川大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 初期応答遺伝子 / セリン/スレオニンキナーゼ / 雌雄モザイク |
Outline of Annual Research Achievements |
1. ミツバチにおけるタンパク質キナーゼ型初期応答遺伝子の同定と解析 昨年度に実施した痙攣誘導個体の脳サンプルを用いたRNA-seq解析より取得した19個の候補配列のうち、セリン/スレオニンキナーゼをコードする#15が初期応答遺伝子の定義を満たすことを確認した。#15は、(1)痙攣誘導時の脳内発現が高次中枢であるキノコ体に限局する、(2)餌を採集して巣外から戻ってきた個体(採餌蜂)の脳で顕著な発現が観察されないという、昆虫における既知の初期応答遺伝子と異なる性質を有することが明らかとなった。また、ショウジョウバエやラットにおいては痙攣誘導時の#15相同遺伝子の発現上昇は認められなかった。 2. 既知初期応答遺伝子Egrの発生期のミツバチ視覚経路における発現解析 脊椎動物では、初期応答遺伝子の一部が神経発生においても重要な役割を果たすことが知られている。報告者が以前にミツバチで同定した初期応答遺伝子Egrについて、発生期の脳内で発現解析を実施した。その結果、蛹の初期から中期にかけて視葉で一過的に発現が上昇することが明らかとなった。また、発生期には初期応答遺伝子として発現上昇する際とは異なるsplice variantが存在していた。 3. クロマルハナバチの雌雄モザイク個体内の性分布の解析 初期応答遺伝子のハチ目内での機能の比較解析の実施中に、外見上左がオスで右がメスのクロマルハナバチ個体を発見した。昆虫の雌雄モザイクに関し、神経系をはじめとした形態学的に性の判別が困難である組織を対象とした解析例はほとんど存在しない。形態と性行動の観察に加え、性決定遺伝子doublesexの発現パターンを指標とした分子生物学的な性の判定を試み、「見た目は左右で雌雄が半々であっても、中身もそうとは限らない」ことを示した。本成果は投稿論文として発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脊椎動物においては、神経活動に伴い一過的に発現が上昇する多数の「初期応答遺伝子」が、活動した細胞のマーカーとして利用される他、記憶・学習の基礎過程であるシナプス可塑性に重要な働きを果たすことが示唆されている。一方、ミツバチを含む昆虫ではこれまでkakusei, Egr, Hr38の3遺伝子のみが報告されている。そこで、本研究課題では項目の1つとして「RNA-seqによるミツバチにおける初期応答遺伝子の網羅的探索」を設定している。タンパク質キナーゼ型の初期応答遺伝子の報告は昆虫では初となる。また、動物界全体でも報告例は極めて少ない。#15の初期応答遺伝子としての性質はミツバチ特異的と考えられ、ミツバチが持つ高い記憶・学習能力との関連を議論する上でも重要な発見と考える。 既知初期応答遺伝子であるEgrについても、昆虫における知見はそれほど豊富ではなかった。脊椎動物では、昆虫Egrと相同な遺伝子Egr-1の神経系における働きとして、初期応答遺伝子としての役割に加え、発生期の網膜形成への寄与が知られている。昆虫の視葉は、脊椎動物の網膜と進化的起源を同一にすると考えられており、今回得られた結果は、Egrの発生期の役割についても脊椎動物-昆虫間での保存性が示唆されるものである。 雌雄モザイク個体の出現は全くの予想外であったが、クロマルハナバチの人工増殖系の実績を有する受入研究室ならではの機会と考え、解析を実施した。性決定遺伝子の発現が、外見の性分布と同様に脳の左右半球で異なる性のパターンとなっている一方、生殖器官系はほぼ一様にメスという結果は発生学的にも興味深い。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. #15の詳細な性状解析 protein kinase型の初期応答遺伝子は極めて珍しく、#15がユニークな役割を持つ可能性がある。また、核内で機能する転写因子と異なり、軸索や樹状突起で機能する可能性がある。その場合には、活動した神経細胞の投射パターンを可視化するための有用なマーカーとなることが期待される。抗体を作成し、神経細胞内の局在箇所やリン酸化の基質を同定する。RNA-seqの解析プログラムにバグが存在した関係で、候補遺伝子がさらに34個追加された。これらについても解析を行い、ミツバチにおける初期応答遺伝子の発現プロファイルを完成させる。 2. Egrのsplice variantの解析 神経発生関連マーカー遺伝子やBrdUとの共染色脊椎動物との共染色により、視葉Egr発現細胞の種類を同定する。また、各variantの詳細な解析を行うことで、Egrが初期応答遺伝子として機能する際のプロモーター領域の絞り込みが可能と考えられる。将来的には、プロモーター領域下流に蛍光タンパク質やイオンチャネルを組み込むことで、活動した神経細胞を特異的に操作可能なトランスジェニックの作出に繋がると期待される。 3. 熱殺蜂球形成の解発機構の解明 受入研究室の先行研究より、ニホンミツバチが感知可能でセイヨウミツバチは感知不能というオオスズメバチの体臭成分が複数同定されている。これらの成分物質を各種ミツバチに提示し、行動や発熱量の変化を解析する。併せてEgrや#15等の初期応答遺伝子を神経活動マーカーとして利用し、活動する脳領域の同定を行う。
|
Remarks |
本申請者自身が作成した原稿を、受け入れ研究者(小野正人教授)が玉川学園広報課に依頼し、玉川大学大学院ウェブサイトのニュース・イベント紹介ページに掲載。
|
Research Products
(9 results)