2015 Fiscal Year Annual Research Report
脂肪滴一重膜におけるリン脂質脂肪酸鎖の生物学的意義の解明
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14J12201
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
有澤 琴子 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 脂肪滴 / 膜リン脂質 / 脂肪酸 / エマルション |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までの成果により、脂肪滴がFat specific protein 27 (FSP27) を介して融合し肥大化する際に、脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸鎖の飽和脂肪酸の割合が増加するという結果が得られた。平成27年度は、この脂肪酸鎖の変化が脂肪蓄積においてどのような意義を持つか調べることを主眼に置き、下記の2つの仮説について検討を行った。 ◆検証1:脂肪滴膜の物理的性質の評価 平成26年度までの成果により、細胞内の大型脂肪滴由来の脂質抽出物を用いて試験管内でエマルションを再構成すると、大型のエマルションが得られることが示唆されたことから、脂肪滴を構成する脂質そのものの生物物理的性質が、大型脂肪滴形成に寄与していることが示唆された。そこで、リン脂質の脂肪酸の不飽和度がエマルションのサイズに与える影響を調べるために不飽和度の異なる脂肪酸を持つ合成リン脂質を材料にした検討を行った。ホスファチジルコリン (PC) とトリグリセリドを、細胞内脂肪滴における構成比に準じた割合で混合してエマルションを形成させると、飽和脂肪酸が結合したPCを用いた際に大型の脂肪滴が観察され、リン脂質の飽和脂肪酸は、大型脂肪滴の形成あるいは安定化において重要な意義を持つことが強く示唆された。これらの結果は論文投稿準備中である。 ◆検証2:脂肪滴膜へのタンパク質局在の評価 Perilipin1の脂肪滴への局在が脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成により調節され得るかを調べた。検証1と同様に不飽和度の異なるPCを用いてエマルションを作製し、エマルションへのPerilipin1の結合をWestern blottingで評価した。その結果、予想に反してPerilipin1は不飽和脂肪酸が結合したPCを用いた小型のエマルションに多く結合する傾向があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、脂肪滴膜における脂肪酸鎖の違いが脂肪蓄積においてどのような意義を有するか検討を行った。その中で、大型脂肪滴に特徴的なリン脂質の脂肪酸組成が、脂肪滴の大型化に有利な物理的性質をもつことを明らかにしている。この研究結果は、脂肪滴膜のリン脂質脂肪酸組成が脂肪滴の大型化に関与していることを示す新たな知見であり、最終年度の研究に繋がる成果である。これらの研究成果については論文執筆中で、ほぼ投稿できる形に仕上がっている。また、脂肪滴の肥大化に関わる膜タンパク質の局在に、リン脂質の脂肪酸組成の違いが関与しているかについても検討した。この研究結果については、更に検討する必要があるが、脂肪滴一重膜における脂質の変化がタンパク質の局在にも影響を及ぼすことが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 脂肪滴膜の脂質組成と脂肪滴膜タンパク質局在の関連性 平成27年度までの研究成果により、Perilipin1タンパク質が、不飽和度の高いリン脂質膜を持つエマルションに結合しやすいことが示唆された。そこで本年は細胞内でのPerilipin1局在にも膜リン脂質の不飽和度が関わっている可能性を検討する。GFPを結合させたPerlipinをNIH3T3細胞にトランスフェクションし、蛍光顕微鏡観察にて脂肪滴への局在を評価する。脂肪滴を形成させるためには遊離型の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸を培地に添加するが、不飽和脂肪酸を添加した場合も、脂肪滴膜のリン脂質に飽和脂肪酸が多く含まれることがこれまでの実験により示されているため、添加する遊離脂肪酸の不飽和度を変えるだけでは、脂肪滴膜リン脂質の不飽和度の違いを比較することは難しい。そこで、不飽和度の異なる脂肪酸が結合しているリン脂質を細胞に添加する方法を用いて脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成を変化させる方法を検討する。
2. コリン欠培地を用いた大型脂肪滴モデル細胞の作製および脂肪滴の脂質組成解析 培地中のコリン欠乏により、細胞内の脂肪滴蓄積が増進することが報告されており、細胞種によっては、顕著に大型の脂肪滴が得られる可能性がある。このコリン欠乏培地でNIH3T3細胞を培養し、大型の脂肪滴を得ることができた際には、その脂肪滴の脂質組成を解析する。膜のホスファチジルコリン量は減ることが想定されるが、脂肪滴の大型化に適応するために、脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成も調節される可能性がある。この脂肪酸組成を解析することで、大型脂肪滴を維持するために必要な膜リン脂質脂肪酸組成およびその物理的な性質について考察を深めることができると考える。
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Research Products
(4 results)