2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J12250
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
冨田 知世 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 新制度論 / 組織論 / 高校 / 教師 / 教育社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、特に進学高校においてある授業時間配分が選択され定着するメカニズムの解明を目的とし、その際に、総合的な学習の時間の1週間の時間割内への編成に関わる困難性に着目するものであった。また、この課題を通して、「地位戦略の正当性」理論を構築することを理論的な目的とした。 本年度、研究を進めた結果、高校教師が授業時間配分を組織化する行為を、新制度論のパースペクティブを用いて理解することが可能であると判断した。すなわち、高校教師が所属学校において授業時間配分、あるいは授業実践を選択する際、その学校がいかなる制度的環境にさらされた高校であるのかを判断し、その制度下において適切とされる振る舞い、組織構造を反映させ選択する、というメカニズムがあることを一定程度解明することができた。また、ここで言う制度とは、社会学における新制度論者が特に注目する、アクターが主観的に構築した文化的フレームを指す。本研究では、教師が主観的に構築した「進学校」として振る舞うべき制度を「進学校」制度と呼び、制度が組織構造や個人の行為に影響を及ぼす面を明らかにしてきた。 一方で、先行の新制度論的組織研究では、制度に対して戦略的、主体的に振る舞うアクターの姿も描かれてきた。この点も踏まえ、本研究では「進学校」制度を組織の境界をまたいで普及させる教師にも着目し、普及先の高校の制度に変更を試みる教師の姿を捉えた。 本研究は、新制度論のパースペクティブを用いたミクロレベルの組織研究に対しては、制度に対し受動的であり能動的でもある個人の2面性を捉える概念を提示できるとともに、教師研究に対しては教師の組織化の行為を理解する視点を提供できる意義を有する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
はじめに、年度前半は、以下の理由より研究実施計画に変更を加えた。本研究を実施していく中で、新たな授業時間配分選択(および授業実践の選択;注 研究計画執筆当初は検討範囲ではなかったが、同様の理由で対象を拡大)のメカニズムが見えてきたことに加え、理論研究を進めていくことにより、研究対象の拡張、理論枠組みの精緻化、および調査対象校の限定化、分析視点の変更・一元化の必要性が生じ、それに対応しながら研究を遂行した。 年度当初は、ある授業時間配分がある学校において選択されるのは、その学校の「地位」を維持・向上させようとする教師の戦略的行為の結果であるという仮説を立てていた。しかし、ある高校で確立した実践や時間配分を、教師が異動後の高校において普及させている現象を発見し、授業時間配分の選択という行為は、教師が主観的に構築した文化-認知的制度に影響を受けている、という新たな仮説を持つことができた。よって、本研究は、「進学校」という制度と教師という個人の相互作用に焦点を当てることにした。それに伴い、理論的目的については「進学校」制度の創造・維持・普及のメカニズムを教師というアクターの行為を通して明らかにすること、と捉えなおした。年度前半で以上のような変更があったが、それによって博論執筆に直接結びつけることができる理論枠組みの構築が完了できた。その理論枠組みに基づき計画した調査も7割は実施できたものと自己評価している。 また、その理論枠組みに基づき成果を発表した論文「『進学校』制度の普及過程に関するミクロレベル組織分析-東北地方の公立高校組織と教師を事例として」が、日本教育社会学会編『教育社会学研究』第96集に掲載が決定したことも、「おおむね順調に進展している」との評価を下せる理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、制度とアクター個人の行為との相互作用を、「進学校」制度の創造・維持・普及という3つのフェーズに分けてとらえていくこととする。また、「進学校」制度の具体的中身として、実施計画当初から着目する授業時間配分と、授業実践を取り扱う。 今後本研究では東北地方のA学区に所在する公立高校X高校(実施計画で階層構造安定地域の「X高校」とした学校)が創造した「進学校」制度を事例とする。この「進学校」制度は、時代を経たX高校の教師たちを制約するように作動すると同時に、教師たちも「進学校」制度を維持している。さらに、X高校において「進学校」制度に埋め込まれた教師たちは、他校(Y高校を事例とする。実施計画で階層構造安定地域の「2番手校」とした学校)に制度を普及させる。以上のような制度の3つの過程において教師というアクターがいかに振る舞うのかを解明することを目的とする。 制度の創造・維持・普及のすべてのフェーズで、調査・分析が進んでいるが、以下の調査・分析・理論研究を今後進める必要がある。まず、制度の創造過程に関して、制度の創造元であるX高校に勤務経験がある教師に対するインタビュー調査をさらに進める必要がある。創造において中心的役割を果たした教師に対して、1度インタビューを実施したが、質問項目や問いを精査し、再度インタビューが必要である。また、「進学校」制度の維持過程に関しては、理論枠組みに照らし、修士論文で使用したデータを再分析する必要がある。理論研究については、本研究が用いる新制度論的ミクロレベル組織分析を、教育組織、とりわけ高校組織と高校教師を取り扱う際に有効であることを、十分に示していくための整理が必要である。
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Research Products
(3 results)