2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J12286
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五十嵐 ひかる 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 神経回路 / 前帯状皮質 / 扁桃体 / 恐怖 / 嗜好性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、恐怖記憶が復元するメカニズムを回路レベルで明らかとすることである。不安障害は日本でも多くの患者を抱える精神疾患であり、中でも心的外傷後ストレス障害 (Post-Traumatic Stress Disorder, PTSD) はパニック発作、うつ、睡眠障害、離人感、失感情などといった症状を引き起こす。この治療に用いられる「認知行動療法」の一つに曝露療法が挙げられる。一方で、治療後にストレス等を受けることにより、克服したはずの恐怖が再度表在化(= 復元)することがある。35%を超える高い再発率が、現在の曝露療法の大きな課題となっている。本研究は曝露療法の動物モデルとしてげっ歯類を用い、「恐怖の復元」と呼ばれる現象について神経回路レベルでのメカニズム解明を目指している。 これまで、申請脳領域である下辺縁皮質に近く、かつ恐怖に関わる脳領域として前帯状皮質に着目し、前帯状皮質-扁桃体経路が恐怖ではなく快情動に関わることを明らかとしてきた。 そこで、前帯状皮質-扁桃体経路が別の情動である不安に関わるかを検討するために、高架式十字迷路試験とオープンフィールド試験を用いて検討を行った。その結果、本経路の活性化は不安を正にも不にも調節しなかった。また、神経投射に順行性に感染するウイルスを用い、前帯状皮質から投射のある脳領域を蛍光蛋白質eYFPにより観察した。前帯状皮質にはCg1とCg2の二つの亜領域に分けられる。したがって、この亜領域別に神経投射の検討を行った。その結果、扁桃体(特に亜核であるBLA)に投射する細胞はCg1領域に多く存在することを明らかとした。また、Cg1領域からは扁桃体の他に、側坐核(吻側)、視床下部、中脳水道周囲灰白質(背側)などに投射があることが明らかとなった。更に、行動試験において前帯状皮質-側坐核経路を活性化させた結果、不快情動が惹起された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は現在までにおおむね順調に進展している。 前年度までに、前帯状皮質-扁桃体経路の活性化が恐怖を惹起しないことを明らかとした。今年度は前帯状皮質から他領域への投射について検討を行い、前帯状皮質からの投射領域の解明を全脳レベルで行った。また、前帯状皮質-側坐核経路の活性化が、不快情動の生成に関与することを明らかとした。これは、本経路が恐怖の復元に関わる可能性を示唆している。申請研究は当初の予想とは違う結果を得られつつも、別視点から新しい知見を与えている、という点で順調な成果を上げている。
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Strategy for Future Research Activity |
今回得られた結果は、前帯状皮質-扁桃体経路が担う快情動が抗不安作用を持たないことを示している。恐怖と不安は同じく不快情動であるが、今回の結果はそれらは詳細には区別されるものであることを示した。これは、恐怖の復元を抑制する、という部分においてよりクリティカルに働くのではないかと考えている。また、前帯状皮質に存在する細胞は、異なる領域に投射を送る細胞ごとに違う情報を担っているという可能性も示された。これは、より詳細な情動制御の解明の大きな一歩であると確信している。 これらを踏まえ今後は、①前帯状皮質-扁桃体経路が特異的に快情動を担うこと ②前帯状皮質から他領域への投射の活性化による情動制御 を検討していきたいと考えている。光遺伝学的手法は、神経終末を刺激することで経路特異的な活性化を引き起こす手法である。そこで、この神経終末の興奮が細胞体に伝わり、他領域への投射を活性化させていないかを確認するため、神経終末刺激と同時に細胞体(前帯状皮質)を抑制する検討を行っていきたいと考えている。
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Research Products
(1 results)