Research Abstract |
今年度は,理数科領域で卓越したパフォーマンスを発揮しつつある中学生・高校生を対象とし,彼ら彼女らはどのような文化・社会的な環境の影響を受けて才能を開花させつつあるのかについて,遡及的かつ定性的な調査・分析を実施した.調査対象者は,次の基準により選定を行った.1)理数科の領域で国内外で高く評価され何らかの受賞経験を持つ,2)理数科系分野の学会・協会等の専門家組織によって卓越した専門的能力を持つとの推薦を得ている中学生および高校生.以上の基準から選ばれた調査対象候補者の内,51名から協力が得られ,調査を実施した.調査は深層的(in-depth)・自由回答的(open-ended)・半構造的(semi-structured)インタビューにより実施し,インタビューの平均時間は約40分であった.また,対象者の指導に当たっている教員へのインタビューおよび一部の対象者の両親へのインタビューもあわせて実施し,対象者を取りまく状況や活動状況等の詳細に関してデータ収集を行った.全てのインタビューは本人の承諾を得た上で全て録音され,テキスト化され,定性的データ分析法により階層的カテゴリー化が進められた. 分析の結果,582の意味単位から277の意味単位が分析の対象とされ,その結果,「驚き体験」,「理解体験」,「探索体験」,および「創造体験」の4つのカテゴリーが理数科の才能獲得過程に作用する影響の構成要素として抽出された.すなわち,驚きや衝撃を伴いつつ,原理原則に触れる「理解体験」を得た後,「なぜ,どうして」の疑問に自分なりの納得が得られる「理解体験」を経る.その後,自身でなぞや疑問を解明する「探索体験」を繰り返し,その中で新たな理解や発見といった創造を志向する「創造体験」を得ていく,といった図式である. 理数科領域の熟達化は,現存する環境との相互作用の中で得られたきっかけにより本質的なおもしろさに触れる体験を蓄積することによって展開されている.本研究により,こうした体験の蓄積には,学校内外での個々人を取り巻く人的物的状況といった文化・社会的環境要因が大きく影響を与えている点が明らかにされた.また,そこから,「スキル獲得」と「意識化」が,理数科領域における才能育成の重要な方向性として提示された.
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