2004 Fiscal Year Annual Research Report
中国六世紀の詩文総集『文選』の写本・版本と当時の別集との関係
Project/Area Number |
15021204
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐竹 保子 東北大学, 大学院・文学研究科, 助教授 (20170714)
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Keywords | 文選 / 文選集注 / 別集 / 一人称 / 二人称 / 奏弾劉整 / 陸善経 / 任〓 |
Research Abstract |
『文選』の古い版本には、奇妙な箇所が数カ所ある。皇帝への上表文や上司に宛てた書簡で、「私は」と一人称を称すべき所に「公は」「君は」と敬称の二人称を用いているのである。『文選』の古写本では、そうした箇所がさらに増加する。しかもそれらは南朝梁代の任〓の作品に集中して現れる。『文選』所収の任〓の作には、もうひとつ奇妙なことがある。彼の「奏弾劉整」の中間部分にある860字ほどの記述が、1000年代に筆写されたと見られる『文選集注』の正文と注に拠る限り、李善注本系であった正文では162字、陸善経注本『文選』では48字、五臣注本『文選』のみ860字余であったというのである。五臣・李善・陸善経の当時置かれていた状況を調べると、もっとも良い知的環境にあったのは陸善経であることが分かる。陸善経は、いわゆる「開元の輯書」の直後に集賢殿書院に詰めており、唐代においては空前絶後の善本の集積を前にしていた。彼の拠った『文選』が善本であったこと、彼が別集本も見ていたことは、『文選集注』から推定できる。つまり、くだんの860字は任〓の別集が収める「奏弾劉整」にあり、『文選』はそれを48字に削っていたのであり、陸善経はその双方を見たと考えられるのである。したがって860字を含む唐代の五臣注『文選』や現行の版本『文選』の正文は、別集の痕跡を残していることになる。ここで先述の奇妙な自称について再考すれば、これも、別集や家集の痕跡と見られる。別集・家集は多く子孫が編むため、父祖の名が敬称に置き換えられる。現行の『文選』に別集の痕跡があるのは、おそらくその欠失部分がかつて別集で補われたためと推測される。その痕跡が任〓の作に集中しているのは、任〓が宮中の本を補いうるほどの蔵書家であったこと、彼の死後に子供たちが没落していることと関わるだろう。
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Research Products
(1 results)