2003 Fiscal Year Annual Research Report
近世琉球における漢籍の収集・流通・出版についての総合的研究
Project/Area Number |
15021220
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
高津 孝 鹿児島大学, 法文学部, 教授 (70206770)
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Keywords | 琉球 / 本草学 / 流通 / 出版 / 薩摩 |
Research Abstract |
「鎖国を越えた博物学調査」について研究をおこならた。今から220年前、江戸にいた薩摩藩主島津重豪の命により、薩摩藩の吉野植物園で作られた彩色植物図が、,琉球を通じて、中国は福州、北京に運ばれ、清朝の医師や薬種商に鑑定を依頼することがあった。これは、日本本草学の抱えていた本質的な問題点、中国産の薬材を基本として成立している本草学の書物を異国である日本はどのように受容し理解すべきかという問題の解決を目指してのものである。この調査は、集大成され『質問本草』として残されている。天明5年(1785)島津重豪の時代に彩色写本として完成し、天保8年(1837)曾孫の島津斉彬の時代に木版で出版された。薩摩藩は、安永8年(1779)に吉野薬園を設け、薩摩藩内に見られる多くめ薬草を集め栽培することにした。この吉野薬園で、天明元年(1781)から6年(1786)にかけて、精密な彩色植物図譜6冊が作成され、琉球を通じてはるばる福州、北京へと運ばれ調査が行われた。中国での調査は極めて周到な準備のもとに行われ、植物図の横には標本が張り付けられ、植物名は記さないが、産地や開花時期などの情報を記載し、また、根や実は別に添付し、それでも不足する場合は、鉢植えを準備した。鑑定を依頼した相手は福州の医者、学者や北京の薬種商である。さらに、長崎にやってくる清朝の商人、薩摩に漂着する中国人にも鑑定を依頼している。現在残されている刊本『質問本草』は、その著者を琉球・呉継志とする。架空の人物琉球人呉継志を設定することは、薩摩藩の支配下にありながら、独立国として清朝と朝貢貿易を行っている近世琉球の現状を隠蔽するための措置である。『質問本草』は、鎖国体制にある江戸時代において、その存在自体に複雑な国際関係を反映した博物学著作なのである。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 高津 孝: "薩摩の博物学-鳥類研究-"地域政策科学研究. 1. 1-24 (2004)
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[Publications] 高津 孝: "鎖国を越えた博物学調査-薩摩の本草学-"コミュニケーションのかたち-ことば・もの・メディア-. 1-19 (2004)
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[Publications] 高津 孝: "江戸の殿様と北京の薬局"漢字と情報. 8. 1-2 (2004)