Research Abstract |
本年度は,以下の研究を行なった。 一連の単一成分分子性金属は,中心金属と2つのリガンドを持つ一種類の錯体分子から成る。まず,構成分子自体の電子状態と安定構造を調べた。平面形状を仮定して4種類の分子Ni(tmdt)_2,Au(tmdt)_2,Cu(dmdt)_2,Zn(tmdt)_2のHOMO(SOMO)・LUMO近傍の4軌道の波動関数とエネルギー固有値を求めた。主としてリガンド分子のπ軌道からなる3軌道については,そのエネルギー固有値が,中心金属にあまり依存しないが,中心金属と周囲のS原子から成る反結合軌道のエネルギー固有値は,中心金属に大きく依存することがわかった。Au(tmdt)_2とCu(dmdt)_2は,SOMOを持つので,スピン分極していると考えられ,それを考慮した計算も行なった。Au(tmdt)_2については,スピンによる電子構造の違いは小さいが,Cu(dmdt)_2では,これとは対照的に,CuとSからなる反結合性軌道のエネルギー空間での位置が大きく異なることがわかった。さらに,2つのリガンド分子のなす2面角の関数として全エネルギーを計算し,実験で得られた安定構造を計算で再現できる事を確認した。Au(tmdt)_2とCu(dmdt)_2の結晶固体において,スピン分極を考慮した電子状態計算を行ない,反強磁性秩序解を得た。 TTF-TCNQについては,15GPaまで5GPa刻みに,静水圧を印可した状態での結晶構造を第一原理計算により決定し,さらにフェルミ面形状などの電子構造を求めた。単純な予想に反し,静水圧が加わるほどフェルミ面の擬一次元性が増していくことが確認された。これは,対応する方向に沿って結晶がより変形しやすい事を反映するものである。この知見は,実験で確認された静水圧印可によるCDW転移抑制の機構の解明に,重要な情報と期待される。
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