2006 Fiscal Year Annual Research Report
分子シミュレーションによる膜タンパク質の構造変化と物質輸送機構の解明
Project/Area Number |
15083201
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杉田 有治 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 講師 (80311190)
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Keywords | 分子動力学 / 膜タンパク質 / 拡張アンサンブル法 / イオン能動輸送 |
Research Abstract |
本年度は、カルシウムポンプのみならず、心筋におけるカルシウムポンプの機能を制御しているフォスフォランバンに関する研究を行った。フォスフォランバンは、52残基からなる1回膜貫通ペプチドであり、生体膜中では通常、五量体を形成している。フォスフォランバンは単量体としてカルシウムポンプに結合し、そのCa^<2+>輸送を阻害する一方で、フォスフォランバンのSer16またはThr17のリン酸化により、この阻害効果が弱まることが知られていた。リン酸化によるフォスフォランバンの構造変化はこれまで、核磁気共鳴(NMR)やFRETなどを用いて研究されてきたが、それぞれの実験結果から異なるモデルが提案されており、統一的な解釈がなされていなかった。そこで我々は、フォスフォランバンの細胞質ドメインを切り出し、Ser16のリン酸化前と後の構造モデルを作成し、さらに溶媒を付加した分子動力学計算を行った。その際、強力な構造サンプリング手法の一つであるレプリカ交換分子動力学法を用いることにより、熱平衡状態で取り得る可能性のある構造を広くサンプルすることができた。その結果、リン酸化される前に安定に存在していた細胞質中のαヘリックスは、リン酸化後には部分的にαヘリックスがほどけた構造を取っていることがわかった。この変化はリン酸化により生じたフォスフォランバンの分子内塩橋がαヘリックス構造を壊すことによって生じており、この構造変化によってカルシウムポンプとの安定な複合体の形成を妨げていることを示唆している。また、計算によって得られた結果は、伸長した単一αヘリックスの方が、同じアミノ酸残基数の部分的にほどけた立体構造と比較してむしろ伸びた構造であることを考慮すると、NMRとFRETの両方の実験結果をみたしていた。
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