Research Abstract |
骨代替器具や人工血管を構成するステント等の生体材料では、生体親和性が良好で弾性率が骨(20〜40GPa)類似であることに加え、高加工度成形が可能、すなわち超塑性で、変形に対して形状を保つことが重要であるために超弾性であることが望まれる。生体親和性に優れ、弾性率が骨類似である上記生体材料としてチタン合金が有利であることから、無毒性元素から構成され、低弾性率を示すチタン合金の開発が進められている。申請者らが中心となって開発を進めてきた生体用Ti-Nb-Ta-Zr系合金では、引張試験で超弾性を示す民生用超弾塑性チタン合金が示す場合の応力-歪曲線と同様な挙動が観察されており、超弾塑性発現の可能性が極めて高い。また、民生用超弾塑性チタン合金では、冷間加工性が極めて優れており(超塑性)、しかも高延性を保ったまま強化できるため、低弾性率を保ったまま超弾性で高強度とすることができるとされている。したがって、このような優れた力学的特性も生体用Ti-Nb-Ta-Zr系合金に付与することができると期待される。そこで、本研究では、Ti-Nb-Ta-Zr系合金を基礎として、(1)超弾塑性を発現し、低弾性率であるチタン合金を設計し、(2)超弾塑性発現のためのプロセッシングの確立、(3)超弾塑性発現機構の解明、(4)ナノスケールでの構造変調の解析、(5)その力学的特性および生体親和性評価、(6)ステント等の製造に匹敵する精密加工技術の確立、さらに(6)高分子との複合化技術までを確立することを本研究の目的とする。特に、弾性率では現在70GPa程度であるものを40GPa以下にすることを目標値として設定する。超弾性としては、弾性伸びが5%以上を目標値とする。また、生体材料としてだけでなく、福祉材料としても実用化する場合には低コストであることも重要であることから、低コスト合金とすることも念頭に置き研究・開発を行う。 Ti-XNb-10Ta-5Zr合金の弾性率は,Nb添加量の増加に従い減少する傾向を示した。しかし,ミクロ組織中にω相が析出するNb添加量15%,20%および25%のTi-XNb-10Ta-5Zr合金では逆に増加する傾向を示した。また,Ti-25Nb-10Ta-5Zr合金では,複数の変形機構が同時に活動するため,作製したTi-XNb-10Ta-5Zr合金の中で最大の伸びを示した。Ti-30Nb-XTa-5Zr合金の引張強さおよび伸びは,Ta添加量10%をしきい値として大きく変化した。また,Ti-30Nb-10Ta-XZr合金の引張強さは,Zr添加量の増加に伴い上昇し,伸びは減少した。Zr添加量変化に伴う引張特性および弾性率の変化などの観点から,Ti-Nb-Ta-Zr系合金に対して,Zrは,NbおよびTaと同様に,β安定化元素に類似した影響を示すことが明らかになった。 Nb添加量が20%および25%のTi-XNb-10Ta-5Zr合金,Ta添加量が0%および5%のTi-30Nb-XTa-5Zr合金およびZr添加量が0%および3%のTi-30Nb-10Ta-XZr合金にて,β相のα"相への応力誘起相変態および逆変態が確認された。そのため,これらの6種類のTi-Nb-Ta-Zr系合金では,形状記憶効果および超弾性の発現が期待できることが明らかになった。Ti-30Nb-10Ta-5Zr合金の結晶格子では,格子歪み量が許容できる最大の弾性歪み量に到達した結晶方位への弾性変形が拘束されると考えられる。そのため,比例限以上の応力では,弾性率が見掛け上減少した。したがって,Ti-30Nb-10Ta-5Zr合金の応力-歪み線図では,その弾性変形挙動がフックの法則に従わないことが明らかになった。
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