Research Abstract |
本研究は,概念的に新しいアセチレン類の環化反応の開拓により優れたπ共役化合物群を創出し,これをもとに材料科学の新たな局面を切り拓くことを目的とする.この化学では,いかに重要な骨格を,いかに効率的に,かつ,一般性をもって創りあげるかが鍵となる.本研究では,そのような骨格としてラダー型π電子系に着目し,その骨格形成反応の開発に取り組み,これまでにケイ素・炭素架橋オリゴ(フェニレンビニレン)類や縮環オリゴチオフェンの合成を達成してきた.本年度はこれらの成果をさらに発展させ以下の二つに纏められる成果を得た. 1.種々の典型元素で架橋したオリゴ(ρ-フェニレンビニレン)の合成と物性 前年度までに開発したジフェニルアセチレン類の分子内還元的環化反応をさらに発展させ,ケイ素および硫黄で架橋したオリゴ(フェニレンビニレン)類の合成を達成した.この化合物は,強固なπ共役骨格を反映し小さなストークスシフトともに強い蛍光特性を示した.また,硫黄の酸化により,容易にその電子構造をp型からn型へと変換可能であることを示した.また,リン原子で架橋したスチルベンの合成法の開発にも取り組んだ.上述の分子内還元的環化反応を応用することにより,ジフェニルアセチレン類からone-potで目的化合物を合成することに成功した.得られた化合物は極めて強い蛍光を長波長領域に示し,また,極めて長い蛍光寿命をもつことが明らかとなった.これらの特性は,炭素で架橋した類似体と比較しても顕著であり,リン原子を導入する効果であるといえる. 2.拡張ヘテロアセン類の一般的合成法 前年度までに開発に成功したビス(ο-ハロアリール)ジアセチレンを用いた分子内三重環化反応を一般性,汎用性という観点でさらに改良し,ビス(ο-ハロアリール)アセチレンを原料とする分子内二重環化反応を開発し,より長鎖の縮環オリゴチオフェンの合成を達成した.また,ニッケルを用いた脱カルコゲン反応を新たに開発し,より温和な条件下での縮環オリゴチオフェン合成を可能にした.これらの手法により得られる縮環オリゴチオフェンの有機トランジスタへの応用について検討したところ,高い正孔移動度を示した.これらの材料の高い応用の可能性を示す結果である.
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