2003 Fiscal Year Annual Research Report
果実成熟および生理障害発生にかかわるエチレン信号伝達機構の解明と分子制御
Project/Area Number |
15208003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
弦間 洋 筑波大学, 農林学系, 教授 (70094406)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
板村 裕之 島根大学, 農学部, 教授 (80109040)
菅谷 純子 筑波大学, 農林学系, 講師 (90302372)
江面 浩 筑波大学, 農林学系, 助教授 (00332552)
中務 明 島根大学, 農学部, 講師 (40304258)
中川 強 島根大学, 遺伝子実験施設, 助教授 (30202211)
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Keywords | カキ果実 / ナシ果実 / エチレン / エチレン受容体遺伝子 / 軟化 / 脱渋 / 細胞壁分解酵素 / Race-PCR |
Research Abstract |
カキ果実の成熟、特に脱渋後の急速な軟化を示す品種でのエチレンによる制御機構を明らかにするため、以下の実験を行った。すなわち、'平核無'の着色開始果実から全RNAを抽出して、既知のERT-1サブファミリーのエチレン受容体遺伝子断片を増幅するdigenerateプライマーを用いてRT-PCRを行い、増幅された断片から20クローンの塩基配列は、ERT-1サブファミリーと相同性の高い断片が1種類確認された。3'及び5'Race-PCRを行って全長cDNAを獲得し、再度塩基配列の確認をしたところ、ERT-1サブファミリーのエチレン受容体遺伝子との高い相同性を示した。本遺伝子はカキ果実ではじめて単離されたエチレン受容体遺伝子で、果実発達中に主に発現する遺伝子と考えられた。 脱渋後に急速な軟化を示す'蓮台寺'をアルコール脱渋処理後、エチレン作用阻害剤である1-MCPで処理すると、明らかに果実硬度の低下が抑制された。軟化抑制された果実では細胞壁分解酵素であるβガラクトシダーゼとペクチンメチルエステラーゼ、ポリガラクツロナーゼ活性が抑制されており、本品種の軟化における機構には、エチレンのこれら酵素活性に及ぼす影響が大きいことが示唆された。一方、ドライアイス脱渋で急速な軟化を示す'西条'では、βガラクトシダーゼ(DK-B-gal)とともにキシログルカンendo型転移酵素/加水分解酵素(DK-XTH1,2)の遺伝子発現を調査したところ、軟化時にこれら遺伝子のmRNAの転写量が増加し、1-MCP処理果実ではDK-B-galとDK-XTH1の発現が抑制されたことから、この2つの遺伝子との関連が示唆された。エチレン生成系からみた場合、ドライアイス脱渋時にはACC合成酵素の遺伝子であるACS1がエチレン生成を律速しており、幼果でも脱渋した成熟果でもACC酸化酵素の遺伝子であるACO1,2は概ね恒常的に発現していることが分かった。1-MCP処理すると、'西条'のエチレン生成がかえって促進される場合があることから、エチレンによるnegative regulationによって制御されている可能性も示された。事実、幼果果肉切片にACOのco-factorであるFe^<2+>と競合阻害するNi^<2+>を処理してエチレン生成を抑制するとACO活性が促進された。カキ果実の急速な軟化に伴ってアラビノフラノシダーゼ活性が増加するが、その遺伝子の単離は未だなされておらず、分子制御機構が解明されていない。そこで、収穫後の'平核無'から抽出したmRNA画分を用いて、既知のカキアラビノフラノシダーゼ部分配列をデザインしたプライマーで5'Race-PCRによる全長cDNA獲得を試みた。現在まで単離には至っていないが、今後もプライマーの配列を変更して再度Race法を試みる予定である。 ナシ'豊水'はノンクライマクテリック型果実としてエチレン生成をほとんど示さないが、果実発育期(7月)における低温・寡日照や火山灰土壌条件によって果肉の軟化(ミツ症)を示すことを再確認した。ミツ症の発生が予測される果実の果肉細胞中には、6月下旬から7月にかけて多糖が集積した異形細胞が散見された。今後、エチレン生成系との関係を精査する予定である。
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