Research Abstract |
従来の計算の理論では,単一のプロセスを前提とした計算モデルを前提として,計算の可能性や計算の複雑さに関して膨大な研究の蓄積がある.一方,von Neumannの"自己増殖のモデル"やMinskyの"心の社会"に関する研究における計算の捉え方のように,エージェントと呼ばれる複数のプロセスが相互に作用しながら計算を実行する計算モデルのもとで,学習,進化,知能等がいかにして実現されるかについては,体系的な研究が殆んどなされていない.本研究では,複雑なエージェントの相互作用により,協調と競合の計算メカニズムを解明することを目指するもので,複数のプロセスが相互作用して学習,進化,知能を実現する様々の具体的事例を計算論の立場から解析するとともに,これを実行するアルゴリズムを開発してきた.このような視点から最終の本年度は次のような研究を行った. 1 動的資源分配問題において,それぞれの投資先のリスクが非一様で,学習者がその情報をあらかじめ知ることができるとするモデルを提案し,最適性が保証されているVovkの統合戦略による投資ベクトルの導出とその厳密な性能評価を与えた. 2 各ノードに否定のない単項式がラベルづけされた単調項決定リストと,複数の単調DNF式を排他的論理和で結んだXOR-MDNF式が等価となる条件を与え,その結果から,単調項決定リストに対する質問による学習アルゴリズムを開発した. 3 ユークリッド距離を保存するランダムプロジェクションを用いた線形分離関数の学習について検討し,ランダムシードが4限定独立のときは弱い距離保存の性質を持つが,3限定独立のときは距離保存の性質をまったく持たないことを導いた. 4 次々と訪れる入札者に商品を売るにあたり,その都度価格を設定し,総売り上げの最大化を図るオンラインオークション問題を取り上げ,Vovkの統合戦略を用いて新しいオークション型の統合アルゴリズムを開発した. 5 非線形概念に対する新しい学習の枠組みとして,高次元空間への非線形写像と低次元空間へのランダム写像を組み合わせることにより,元の空間での学習の問題を,低次元空間における半空間概念の学習問題に還元するというものを提案した. 6 与えられたグラフ上で,特定の2点間を結ぶ道を作ろうとするプレイヤーと,それを阻止しようとするプレイヤーが戦うシャノンスイッチングゲームを取り上げ,後手の戦略をペアリング戦略と呼ばれる単純な戦略に限定した場合,先手の戦略に対応する問題の計算量がNP完全で,後手の戦略に対応する問題がΣP2完全となることを示した.
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