2004 Fiscal Year Annual Research Report
ユダヤ人のアイデンティティ問題から見た近代国民国家の理念と現実
Project/Area Number |
15310164
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
市川 裕 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (20223084)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沼野 充義 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (40180690)
野村 真理 金沢大学, 経済学部, 教授 (20164741)
池田 明史 東洋英和女学院大学, 国際社会学部, 教授 (30298294)
手島 勲矢 大阪産業大学, 人間環境学部, 教授 (80330140)
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Keywords | 啓蒙主義 / ロマン主義 / 民族主義 / 近代国民国家 / アトム的社会観 / 宗教概念 / 民族概念 / シオニズム |
Research Abstract |
本研究における重要な視点として確認されたのは、国家と宗教の枠組みから見たユダヤ問題を考察することであった。即ち、近代以前、ユダヤ教は基本的年民族集団と宗教の総合体であったが、近代においては、西欧・東欧・イスラム的オリエントの3つの地域において、近代的社会関係の形成の違いが、そのままユダヤ人のアイデンティティ形成にも甚大な影響を及ぼさざるを得なかったということである。 西欧近代において、Judaismは二つの選択を迫られたが、実際には、歴史の勢いに従って、選択の余地なく、一つを選び取ることになった。それが、Judaismとは「民族」ではなく「宗教」であるという主張である。宗教とは、個人の信仰によって決定され、内面を強制することはできない。信仰を共有する個人の共同体が宗教集団となるという基本理解である。しかし、東欧においては逆に、Judaismは,「民族」として受容された。そうした東西欧州における理解の違いはくユダヤ教だけの問題ではなく、西欧と東欧の「国家・宗教関係」の歴史の相違によるものでもあり、そうした観点の導入は本研究に不可欠である。 東西の違いを決定づけたのは、20世紀における民族主義、全体主義の隆盛という予期せぬ事態であり、近代ユダヤ問題に関わる重大な歴史的要因ともなった。即ち、20世紀に風靡する民族主義の思想は、19世紀西欧の著名な思想家の殆ど誰からも注目されなかったという事実である。西欧においても、19世紀の楽観的な啓蒙主義全盛期から、20世紀の悲観的歴史観とロマン主義的・有機体的国家観の結合への変遷として捉えられている。現代イスラエルはこの問題を「欧州ユダヤ人はユダヤ人解放によって真に解放されたか」として提起し、ホロコーストに至る反ユダヤ主義の歴史が、近代国民国家の民族主義思想と結びついてユダヤ人の物理的排除をもたらしたとして、シオニズムを正当化する。
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Research Products
(7 results)