2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15320051
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 和彦 京都大学, 大学院・文学研究科, 教授 (90183699)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大城 光正 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (40122379)
|
Keywords | 象形文字ルウィ語 / リュキア語 / 楔形文字ルウィ語 / ヒッタイト語 / アナトリア語派 / 中・受動態動詞 / 歯擦音 / パラー語 |
Research Abstract |
象形文字ルウィ語の動詞は、3人称単数語尾に含まれるtがrと交替するかどうかによって、2つのグループに分けられる。つまり、tenseの歯茎音を語尾に持つ動詞とlaxの歯茎音を語尾に持つ動詞とに分類できる。この現象は、象形文字ルウィ語に限られたものではなく、リュキア語と楔形文字ルウィ語にも観察され、歯茎音がtenseであるかlaxであるかはそれぞれの動詞で一貫している。一方、アナトリア語派の他の言語であるヒッタイト語の中・受動態動詞では事情が異なる。pahsari"protects"vs. pahhastat"protected"やhannari"decides"vs. hannatat"decided"などに代表されるように、歯茎音を持つ語尾は過去形に顕著であり、対応する現在形は歯茎音を欠く例が多い。この事実は歴史的な観点から、つぎのように解釈できる。ヒッタイト語の3人称単数能動態現在語尾はその先史で破擦音化を受けた結果、-zi/-tsi/(<*-ti)となった。この変化はルウィ系諸言語やパラー語といった他のアナトリア諸語にはみられないヒッタイト語固有の変化である。破擦音化によってつくられたこの能動態現在語尾-ziは対応する中・受動態語尾になんら影響を与えなかったのに対して、能動態過去語尾-tは対応する中・受動態語尾に影響を与えた。その結果、-ta(<*-t+o)をつくったと考えられる。-taが過去形に顕著である理由はこのようにして説明できる。したがって、ヒッタイト語の先史に生じた破擦音化の後に多くのta-クラスの中・受動態動詞がつくられたに違いない。
|