Research Abstract |
継続調査している大村湾南部に設置したセディメント・トラップより採取した沈降物を125μmと20μm目の篩を用いて篩い分け,20μm目の篩上の残滓試料より渦鞭毛藻シストを捕集した.シストの顕微鏡観察察を行うと共に,細胞質の詰まった生シストを濾過海水の入ったマルチウェルに1細胞ずつ分離し,20℃,恒明条件下で培養することにより発芽実験を行った.接種後毎目観察し,発芽細胞と空シストの多態を記録した.また,発芽した遊泳細胞のDNAを抽出し,単細胞PCRによりSSU rDNAの配列を決定した.さらに同分類群の系統関係を明らかにするために,長崎県沿岸域に出現したさまざまな種の遊泳細胞の配列も決定し,シストからの発芽細胞と併せて分子系統解析を行った.系統樹はΓ補正により重みづけした距離行列を用い,近隣結合法により構築した. Protoperidinium thulesenese(Balech)Balechのシストは,球形で直径55〜60μm,表面に顕著な装飾物はない.シスト壁は褐色でそれほど厚くなく,内側に薄膜をもつ.発芽孔はスリット状で,ほぼ真ん中に入ってシストの2/3から3/4周していることから,偽横溝に沿っていると推察される. 遊泳細胞は,体高40〜50μm,体幅35〜40μmで高さが幅よりも長く,上殻は下殻よりもかなり大きい.上殻はほぼ三角形,下殻は台形で左右の輪郭が丸みを帯びている.横溝は細胞のかなり下方に位置し,明瞭にくぼむ.横溝は腹面で幅の半分程度ずれる.縦溝は短く,深い.鎧板は,頂板1'の上部が頂板3'と接し,前挿間板2aはquadraである.これらの形質からP.thulesenseと同定される. P.thulesenseのシストは,Dodge(1985)により褐色球形でスリット状の発芽孔をもつと報告されているが,それ以降の報告はない.今回,改めてP.thulesenseが褐色球形でtheropylic型発芽孔のシストを形成することを確認した.SSU rDNAを用いた分子系統解析の結果では,形態学的に1属でまとめられていたProtoperidinium属は少なくとも大きく2群に分かれた.一群にはP.americanumと共にtheropylic型発芽孔をもつProtoperidiniumと単系統群を形成した.系統関係を考慮すると,これまでProtoperidinium属のシストはsaphopylic型,diplopsalid類のシストはtheropylic型としていた類型区分は成立しないことが明らかになった.
|