2003 Fiscal Year Annual Research Report
近赤外領域におけるフェムト秒光パルスを利用した分子分光法の展開
Project/Area Number |
15350005
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩田 耕一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教授 (90232678)
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Keywords | フェムト秒 / 時間分解 / 近赤外分光法 / 電子移動反応 / ビアンスリル |
Research Abstract |
化学反応は電子の再配置と考えることができるから,電子移動反応の様子を明らかにすることは化学反応の基礎を理解する上で重要である.研究代表者らは,本年度,フェムト秒時間分解近赤外分光法を用いて分子内電子移動反応の機構について研究した. 研究の対象分子としては,ビアンスリルを選んだ.ビアンスリルは,2個のアントラセン環がC-C単結合でつながった構造をしている.この分子が光を吸収すると,一方のアントラセン環からもう一方のアントラセン環に電子が移動すると考えられている.この電子移動反応については,これまでにも活発な研究が行われてきた.しかし,依然としてこの化学反応に関する未解決かつ基本的な問題がある.一方のアントラセン環が光励起された状態(LE状態)から電子がもう一方のアントラセン環に移動した状態(CT状態)が直接生じるのか,あるいはその間に中間体があるのかという疑問に答える実験結果がなかったことである. アセトニトリル溶液中でビアンスリルの時間分解近赤外スペクトルを測定すると,励起直後には,波長1020ナノメートルに吸収帯が現れた.この吸収帯はLE状態によるものである.0.6ピコ秒後には,この吸収帯はほぼ消失し,CT状態による別の吸収帯が現れた.ヘプタン溶液中で同様の測定を行うと,数十ピコ秒以降の時間領域までLE状態のバンドのみが観測された.アセトニトリル溶液中でLE状態とCT状態の吸収強度の時間変化をみると,LE状態の減衰とCT状態の生成は同じ速度定数(約3x10^<12>s^<-1>)を持ち,その間には中間体がないように見える. 本研究では,時間分解近赤外分光法を用いることでビアンスリルのLE状態とCT状態の両方を明瞭に区別して測定することができた.その結果,アセトニトリル溶液中では光励起によって生じたLE状態が直接CT状態に変化することが分かった.
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