Research Abstract |
透明性が重要な特徴であるMS樹脂は衝撃に対して弱いという欠点を持つ.そのためMS樹脂に微細なブタジエン系ゴム粒子を分散させたMBS樹脂が開発され実用化されており,様々な用途に用いられている,MBS樹脂のさらなる高性能化を実現するためには,ゴム成分の形状・構造・分散状態を工夫することで透明性と耐衝撃性の両方を向上させる必要がある.そのためには,ナノレベルでMBS樹脂の構造を制御することが有効な方法であり,特に,ナノサイズとマイクロサイズの2種類のゴム粒子を分散させるバイモーダル分散を採用することで高性能化が実現できることが期待できる.本研究では,バイモーダル分散型MBS樹脂において,ゴム粒子のサイズ,構造,分散状態が透明性と耐衝撃性に及ぼす影響について調べ,高性能発現のメカニズムを明らかにすることを目的とした.得られた結果は以下の通りである. (1)ナノ粒子の含有率を増加させると耐衝撃性が向上する一方,透明性にはほとんど影響を及ぼさない.また,ミクロン粒子のみが10wt%存在するときは,ゴム粒子の起点としたクレイズの発生と成長が主要な衝撃エネルギー吸収メカニズムであるが,ナノ粒子の含有率を増加させゴム粒子の総含有率を30wt%にすると,衝撃エネルギー吸収メカニズムは塑性変形が中心となり,クレイズは発生しない.エネルギー吸収メカニズムとしてはクレイズより塑性変形の方がより優れており,以上の結果より,ナノ粒子の含有率,分布状態を制御することで塑性変形を発現させ,耐衝撃性をより向上させることが可能であることが明らかになった. (2)バイモーダル分散材料において,透明性については,ゴム粒子の硬度と膨潤度が重要な影響を及ぼし,必ずしもサイズが小さい方が透明性が良いとは限らないことがわかった.また,試料の表面状態が透明性に重要な影響を及ぼし,ミクロン粒子による表面の凹凸をナノ粒子で平滑にする表面のナノ構造制御が透明性の向上にとって有効であることが明らかになった. (3)衝撃負荷を受けるバイモーダル分散材料においては,まず,ナノ粒子およびマイクロ粒子において部分的空孔化が生じ,マイクロ粒子周囲で局所的応力集中によりクレイズが発生し、ボイド化したナノ粒子を連結するようにクレイズが進展することで衝撃エネルギーを吸収することがわかった.マイクロ粒子のみの場合,クレイズは一気に進展しき裂へと移行し破壊が生じるが,ナノ粒子が存在することでクレイズの成長が段階的に生じるためより多くのエネルギーを吸収することが明らかになった.
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