Research Abstract |
蒸気とその凝縮相からなる2相系の界面における蒸発・凝縮機構は未解明な問題点を多く含んでいる.たとえば,温度がわかっている凝縮相に,温度がわかっている蒸気を定められた速度で吹き付けたとして,どの程度の蒸発・凝縮が起こるか,そういう根本的な問題が,(既存の理論の適用範囲を除いて)わからないのである.蒸気の流速,圧力,温度分布は,蒸気が希薄でなければ,通常の流体力学の基礎方程式に従うが,これに課すべき界面での境界条件がわかっていないためである. そもそも,蒸発・凝縮は分子レベルの微視的な現象であるので,流速,圧力,温度等の巨視的変数が界面で満たすべき境界条件は,分子気体力学に基づく解析から導出される(既存の理論;Sone & Onishi,1978).しかしながら,おおもとの,分子気体力学の速度分布関数に対する境界条件自体,少なくとも現時点では,モデル的なものと理解されている.なぜなら,Boltzmann方程式の境界条件は数学的には正しいが,境界条件がその形でなければならない物理的必然性が証明されていないからである。 本研究では,上記の問題点の解決を目指し,分子動力学シミュレーション,分子気体力学の数値計算,および実験を行った.研究対象は,蒸気で満たされた衝撃波管の中の,反射衝撃波によって圧縮された蒸気の管端への膜状凝縮である.以下のような事実が明らかになった. (i)分子動力学計算から,現在広く利用されている分子気体力学の境界条件が,低温の単原子分子気体では正しいことを示唆する結果を得た. (ii)衝撃波管内のメタノール蒸気の膜状凝縮の現象に対し,多原子分子気体に対するGaussian-BGK-Boltzmann方程式を解く分子気体力学シミュレーションを行い,蒸発・凝縮の開始から準定常状態までの全流体力学的プロセスを明らかにした. (iii)衝撃波管を用いた実験を行い,その結果を(ii)のシミュレーション結果と比較し凝縮係数の非平衡度依存性を検討した.これまでに行われてきた単原子分子気体に対する理論を用いた解析結果との比較をとおして多原子分子気体の効果を明らかにした.
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