Research Abstract |
生体の凍結過程において,比較的遅い冷却速度の場合に細胞が損傷を受ける原因は,細胞外凍結に起因する電解質の濃縮,それに伴う細胞の脱水収縮,および細胞外氷晶による機械的ストレス,にあると考えられている.本研究の目的は,凍結条件すなわち熱的パラメータに依存するそれらの原因を定量的に評価し,どのような場合にどのメカニズムが支配的であるかを明らかにすることにあり,本年度は,主として以下の成果を得た. 1.ヒト前立腺癌細胞PC-3を試料とした凍結実験を行い,凍結解凍後の細胞の生存率に及ぼす凍結温度(-10,-20,-30℃)および冷却速度(1,5,50K/min)の影響を定量的に明らかにした. 2.細胞を保持した灌流チャンバー内の溶液濃度と温度を同時に変化できるように,以前に開発した溶液灌流顕微鏡の改良を行った.そして,凍結温度-10℃および-20℃,冷却速度1K/minおよび5K/minの条件に対応する模擬凍結実験を行った.凍結温度-20℃の場合には,得られた生存率は0℃一定で濃度のみ変化した場合の前年の結果より大きく低下した.したがって,0〜-20℃の温度域で,細胞膜の性質の変化があると考えられる. 3.上記の凍結実験と,凍結環境を氷がない状態で実現した模擬凍結実験の結果との比較より,以下の新しい知見を得た. (1)凍結温度が-10℃の場合には,細胞の生存率は約65%であり,損傷原因は細胞外氷晶による機械的ストレスである. (2)凍結温度が-20℃の場合には,細胞の生存率は約10%であり,細胞外氷晶の影響も認められるものの,主な損傷原因は電解質溶液の濃度変化,すなわち溶液効果である.
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