Research Abstract |
有明海湾奥部において底泥間隙水の水質調査を行った結果,南西側でAVS濃度は高い値を示しており,竹崎沖の底泥は広い範囲で嫌気状態となっていることが明らかとなった.これに伴い,硝酸態窒素(NO_3-N)の濃度は低くなり,逆に貧酸素化に伴い底泥からリン酸態リン(PO_4-P)が溶出し,PO_4-P濃度が大きくなっていた.しかしながら,アンモニア態窒素(NH_4-N)の濃度は竹崎沖では減少していた.間隙水中のアンモニア態窒素濃度は,一般に微生物による嫌気的分解により増加するはずである.NH_4-Nに関する逆の空間分布特性には有明海特有の現象が関与していると考えられた.「その原因は浮泥による栄養塩の吸着・溶出に拠る」という仮説を立て,有明海竹崎沖の底泥環境を栄養塩の吸着・溶出現象と関連づけて検討し,室内実験によりこの仮説の妥当性を検証することを試みた.その結果,底泥中の栄養塩濃度は深くなるほど高くなるという一般的な結果に反し,有明海竹崎沖の底泥中のNH_4-NとPO_4-P濃度は,還元層において深さ方向に著しく低下することを見出した.また,底泥の巻上げ実験の結果,DO濃度は減少するが,NH_4-NとPO_4-P濃度は増加せず,ほぼ一定値を取ることを見出した.これらの実験結果から,有機物が分解されているにもかかわらず,栄養塩濃度の増加が認められないのは,「有明海湾奥部西部海域において浮泥による栄養塩吸着が活発に行われている」という仮説の妥当性が示唆された. 有明海の環境に支配的な役割を果たす潮汐のデータを高い精度で詳細に解析し,従来の研究成果との比較を行った.有明海の固有振動周期に関してはこれまで複数の説が出されているが,本研究によると,固有振動周期は約8.3時間のところにあり,それが,M2潮成分などの半日周期潮汐を湾内で1.8倍の増幅を生み出し,そのことが国内でも最大の潮差を引き起こしていることが明らかになった.また,この増幅率はf値の変動とは逆の位相で18.6年周期の小さな変動をしていることが示されたが,この数年は変動に伴う回復が認められず,増幅率が減少していることもわかった.内湾における物質輸送に関しては,物質分散過程として説明する試みが多いが,国内の内湾では弱混合タイプで塩分が混合しにくいこともあって,うまく説明された例はない.ここでは,底質分布過程を明らかにするために潮流の振動成分による分散過程が有意であることを示し,そのプロセスが経常的で安定した分散過程であることを明らかにした.それによると,有明海では潮流による分散係数として10^4〜10^5cm^2/sの縦方向分散係数が基本的な輸送能力として底質分布に係わっていることが推測された.
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