Research Abstract |
ITOは,In_2O_3とSnO_2からなる固溶体で,携帯電話やパソコンの液晶ディスプレイの透明電極として使用されている.ドーパント,SnO_2の添加により,バンドギャップ中Sn^<4+>レベルやIn^<3+>空孔レベルを導入し,電気伝導度を高めている。しかしながら,これらの不純物準位は可視光を吸収する原因となるため,これらの電子配置を調べる必要がある.電子配置は,配位子場分裂に依存することからSn^<4+>イオンとIn^<3+>空孔の配置と直接関係がある.本年度の研究では,ITO固溶体について,イオンや空孔の配置を与える熱力学量,混合のエントロピー,Δ_<mix>S,を検討した. 2,5,7および10mol%のSnO_2を含有するITO固溶体を,焼結法により作製した.まず,絶対零度付近(3K)から,熱容量,C_p,の測定を緩和法によって行い,直接,熱力学第3法則に基づき,基準状態を純In_2O_3とSnO_2とする,混合のエントロピー,Δ_<mix>S_<298>,を決定した.比較のため,金属イオンサイトをIn^<3+>,Sn^<4+>およびIn^<3+>空孔がランダム配置する理想状態の配置のエントロピー,Δ_<mix>S_<ideal>,を計算し,実験結果と比較した. SnO_2の添加量が増加しても,Δ_<mix>S_<298>は,Δ_<mix>S_<ideal>から大きく偏倚し,ほとんど変化しないことが分かった.この原因は,添加したSn^<4+>およびIn^<3+>空孔が自己組織化により規則化し,配置のエントロピーが増加しないためであると推測する.この規則化が,バンドギャップ中の浅い位置での不純物準位の縮退をもたらし,可視光の吸収が起こらず,その結果,ITOは,相矛盾する特性,すなわち,高い透明性と伝導性を兼ね備えると結論した.
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