Research Abstract |
耐食性・耐磨耗性に優れた皮膜をマグネシウムおよびその合金表面に形成して,マグネシウム合金の最大のウィークポイントとされる異種金属が接触した際に発生する接触腐食に耐える表面被覆材料の開発を目的として研究を行い下記を明らかにした. (1)3N-MgおよびAZ31,AZ91E合金について,(10% NaCl + 10% NaOH)水溶液に室温で3.6ks浸漬,その後大気中で3.6ks加熱の処理を行った.この処理を以下では人工腐食-酸化処理と呼ぶ.1% NaCl水溶液中に浸漬して耐食性を評価した.未処理材においては,浸漬直後に水素気泡が多数発生し,その後およそ1.8ksを経て糸状腐食が発生する.しかるにこれら処理材においては,塩水浸漬直後の気泡発生は抑制され,糸状腐食発生までの時間は最大で約20倍となり,人工腐食-酸化処理により著しく耐食性が向上することが示された. (2)(10% NaCl + 10% NaOH)水溶液への浸漬無しに大気中で加熱すると,試料表面には厚い酸化生成物が形成される.これに対して,人工腐食-酸化処理を行った場合には,結晶粒が観察される程度の酸化膜が形成される.また,直接酸化した試料においては,1% NaCl水溶液に浸漬した直後の水素気泡発生は抑制されるが,糸状腐食は未処理材と同程度の短時間で発生することが明らかとなった. (3)ミクロトーム法により,人工腐食-酸化処理を施した試料から作製した切片の透過電子顕微鏡観察を行った.その結果,100〜200nm程度の厚さの皮膜が形成されていることが明らかとなった.制限視野回折図形の解析結果から,この皮膜は酸化マグネシウムであることが分かった.暗視野像観察の結果,酸化マグネシウム皮膜は約10〜20nmの微細粒からなることが示された. (4)金属マグネシウムの腐食過程では,水溶液と金属の間で電子の授受が必要となるが,酸化マグネシウムは不導体であり,このため,人工腐食-酸化処理材の表面においては,電子の授受が妨げられて(1),(2)で述べたように塩水浸漬直後の水素気泡発生が抑制される.その後,人工腐食-酸化処理材においても,未処理材に比較すれば長時間を要するが,糸状腐食が発生するのは,酸化マグネシウム皮膜に何らかの欠陥があり,その部分から徐々に腐食が進行するものと考えられる. 今後,そのような欠陥を減少させることを目標として研究を進める.
|