Research Abstract |
これまでマグネシウムの酸化物を利用して表面改質を試みてきた.耐食性が著しく向上することはすでに示した.マグネシウムは酸化物を形成しやすい元素であるが,他に窒化物を形成しやすいことは知られている.しかし,マグネシウム窒化物は水に可溶であり,耐食性向上は望めない.炭化物,ホウ化物,フッ化物が考えられるが,このうち炭化物の形成は困難であることはマグネシウムの溶解にグラファイトるつぼが使用されることで判る.ホウ化物は,MgB_2の合成が高温で行われていることから容易には形成されないと考えられる.そこで,フッ化物をターゲットとして表面改質を試みた. NaBF_4(テトラフルオロホウ酸ナトリウム)を623〜723Kに加熱して溶融させ,そこにマグネシウム合金を浸漬して,表面反応により改質層を形成させた.AZ31B,AZ91,3N-Mgなどを試料として,このホウ化処理を施した.試料表面は白色半透明の皮膜で被覆された.X線回折測定の結果,NaMgF_3のピークが検出された.この物質はネイバーライトと呼ばれる地殻マントルの構成物質である. フッ化処理を施した試料を,レーザー顕微鏡観察下,濃度1%の硝酸,塩酸,硫酸水溶液に浸漬し,腐食反応の進行を調べた.その結果,フッ化処理を施さない試料では浸漬直後から激しく反応が生じて,水素気泡が多数発生するのに対して,処理材では浸漬しても気泡がまったく発生せず,腐食反応を抑制することができた.硫酸溶液では約1時間後に10×10mm^2の面積中で1箇所から腐食による水素の発生が開始した.塩酸,硝酸溶液ではそれぞれ,6時間後,10時間後に水素発生が開始した.前述のように,NaMgF_3は一種の岩石であり,化学的な安定性は非常に高いために,このような優れた耐食性を発揮することができると考えられる. フッ化処理を施した試料の基板材料を酸性溶液に浸漬して除去し,皮膜のみの微細組織観察を行った.その結果,皮膜はほぼ透明であり,クラックなどの欠陥はきわめて少ないものと判った.また,皮膜の透過電子顕微鏡観察を行った結果,皮膜はほぼNaMgF_3で形成されており,他の相による電子回折斑点は見られなかった.
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