2005 Fiscal Year Annual Research Report
農村金融におけるソーシャル・キャピタルの役割に関する国際比較研究
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15380148
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
泉田 洋一 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (10125809)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
万木 孝雄 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教授 (30220536)
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Keywords | マイクロファイナンス / ソーシャル・キャピタル / ベトナム社会政策銀行 / グラミン銀行 / グループ貸出 / CARD / ユイマール / 労働交換 |
Research Abstract |
開発の問題は一般に、開発市場と国家というふたつの制度をどう組み合わせるかという問題として把握されるが、市場にだけ任せておいたのでは「市場の失敗」が生じるし、政府の介入には時に「政府の失敗」が付随する。特に情報の不完全性によるルールの不明確さや、政策実行主体のレント・シーキング的お行動による履行の不完全性は、低所得国における市場の失敗を国家によって是正することを困難としている。このような背景のもと、近年、共同体の果たす役割が再評価されている。 農村金融やいわゆるマイクロファイナンス(MF)の場面でも、ソーシャル・キャピタルの役割は非常に重要である。農業・農村の発展に対する信用供与の重要性はいうまでもないが、市場にだけ任せていたのでは、信用は十分には流れてこない。しかし、政府による農村金融市場への介入(資金注入政策等)も、資金返済率の低さ、富農へのバイアス、等の悪い結果をもたらすことが多い。MFにおいても市場や政府を補完する中間的組織が必要とされるのである。 本研究は上述の問題意識のもとで遂行されたものであり、主要な研究実績は(1)MFの実態的分析にかかわる部分と(2)労働面における協同関係に関する調査分析の二つに分かれる。前者(1)については、MFの全体的動向を踏まえ、バングラデシュ、ベトナム、フィリピンのマイクロファイナンスの現状と制約条件を、現地調査をベースにして論じた。この3カ国の現地調査では調査票をもとにして金融面を中心とした農村家計に対する聞き取りを行ったが、とくにMFの金融サービスとグループの関係を意識して調査を実施した。ベトナムの場合には、NGOや社会政策銀行のMFの実施にあたっては顧客の選定や融資の手続き等で「集落」の役割が大きく、貧困者に対する金融サービス提供を支える面で集落が重要な役割を果たしている。しかし逆に、資金借入者がコミューンの自主性において決定されるが故に、資金が必ずしも貧困者には流れていないことも明らかになった。またバングラデシュのグラミン銀行ではグループの債務連帯保証が、原則として個人の債務に変更されており、MFの事業拡大と経済進展の一定の進行のもと、融資におけるグループの役割が変化しつつあることが明らかにされた。更にカザフスタンでの家計調査を行い同国における農村金融の分析につなげるつもりである。 後者(2)は、カンボジアのタケオと沖縄波照間島における労働慣行を対象にしたもので、労働交換にみられるようなソーシャル・キャピタルの役割を、現地での克明な情報収集をベースにして分析した。2本の論文がこの点を論じている。労働慣行はソーシャル・キャピタルの具体化したものとして数量的に掘り下げた分析を行った。
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