Research Abstract |
本年度の研究では,中国中山間地域で深刻な耕作放棄地問題を抱える岡山県高梁市有漢町および島嶼地域として,耕作放棄地問題に直面している島根県隠岐の島において農地および牧野管理問題の実態調査をおこなった。以上の調査結果から,本年度は,下記の4項目について研究を進めた。 1.岡山県高梁市有漢町を対象とし,数理計画法を活用して,経営的ならびに労働資源的にみて長期持続可能な農業生産システムの開発に向けたシミュレーション分析を行った。調査対象集落では,10年後には耕作放棄地率は約40%になると推測されている。こうした農地の耕作放棄を回避するため,年齢階層別の労働の質を考慮した労働資源活用方策,ならびに,米価の変化,非農家の労働力活用等も考慮に入れた農業生産システムの開発を行い,これにより,耕作放棄地面積の大幅な削減が可能であることを明らかにした。 2.中国地域を対象として,(1)耕作放棄発生要因の定量的分析,(2)耕作放棄発生要因構造モデルの作成により,耕作放棄地発生予測のシミュレーション分析を行った。 3.粗放的土地利用技術の一つである放牧の普及定着を図るため,放牧馴致,安全対策,家畜生産,草地管理,経営革新,地域貢献の6局面について,放牧技術を多角的に評価する診断票を策定した。この診断票を用いて37戸の肉用牛繁殖経営の放牧技術を診断した結果,放牧馴致が放牧技術の向上や普及の重要なポイントであることと等を明らかにした。また,営農実態に基づく経営モデルの試算結果により,中山間地域では放牧畜産等の低投入型営農の展開が,遊休農地解消,農用地管理省力化,農業所得向上等に有利であることを明らかにした。 4.島嶼地域における肉用牛は繁殖部門中心であるため,和子牛価格が不利な状況になりやすい。こうした不利性を克服し,畜産振興を通じた農地・草地資源の有効利用を図るためには,島嶼地域においても,肥育部門を持ち,育種価等の情報を把握する必要があることを明らかにした。
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