Research Abstract |
現在,前立腺癌予後診断には血中前立腺特異的抗原(PSA)のスクリーニングが汎用されているが,PSAは組織特異的抗原であり,良性の前立腺肥大症などとの区別はなされない.さらに病理組織検査でもこれらの識別は容易ではない. 最近,血中又は前立腺中テストステロン(T)とその活性型である5α-ジヒドロテストステロン(DHT)の比率が前立腺肥大症と前立腺癌患者で大きく異なることが示唆され,バイオマーカーとして有望視されている.本研究は,T/DHTの超高感度分析法を開発し,臨床知見との相関を求めることで,前立腺癌予後診断用バイオマーカーを確立,臨床診断へ応用,キット化,更には新規治療薬の開発を行わんとして計画されたものである. 以上の背景の下にT/DHTのLC/MSによる超高感度分析法の開発に取り組み,それに必要な誘導体化試薬の開発に成功した.本試薬による誘導体化で,誘導体化前に比してTは70倍,DHTは130倍の高感度化がもたらされた.本試薬を基に精度,正確度に優れるLC/ESI-MS分析法を確立した.さらに本法を針生検で得られる程度(10mg)の前立腺中T及びDHTの定量へ適用したところ,前立腺肥大症患者(n=7)のそれではDHTが定量可能であるのに対し,癌患者(n=3)のそれでは定量下限埴以下であった.またいずれの検体でもTは定量下限値以下であった.この知見はマススクリーニングへの適用上有用であった. また,DHT生成と深く関係する5α-reductaseの阻害薬開発を目指して,その活性測定法をLC/MSを用いて開発した.これはTを基質として生成するDHT及び5α-androstane-3α,17β-diolを定量して活性測定を行う方法で,放射性物質を基質としない点が優れている.
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