Research Abstract |
私たちは,生体が用いる情報の形式を研究している。 皮膚を閾以上に加温,または閾以下に冷却すると,温・冷受容器は温・冷線維上に求心性のインパルスを発する。それが脳に達すると,温・冷感覚や体温調節活動が生じる。もちろん,外の温度と,中の感覚は別物だ。 エイドリアン(1928)以来の伝統的な生理学では,これらの受容器は温度をインパルス列の暗号に変えるセンサーであり,暗号は脳で解読され感覚になると説く。しかし,温度の暗号が解読されたら,元の温度に戻らねばならない。暗号の解読で冷感になる筈がない。 これに対し,冷受容器は温度が閾より低い時に駆動信号としてのインパルスを発する比較器であり,閾でのチャネルの相転移が比較機構だと私たちは提唱する。冷受容器の標的が産熱器であるとき,冷受容器は皮膚温のサーモスタットとして機能する。この見方は,感覚系から暗号を除去することを意味する。 最近,温冷受容器の遺伝子が見つかった。これらは,transient receptor potential (TRP)イオンチャネルファミリーに属する。これらの温冷受容器は,温度だけでなく,トウガラシの成分,酸メンソール,浸透圧などの物理的,化学的刺激に反応する。つまり,温度と反応が1対1に対応しない。これも,受容器がセンサーだとの見方を否定する。温・冷受容器は,さまざまな刺激の比較器として働くと考えられる。 この研究では,TRPチャネルが比較器として働く分子機構を解明する。本年度は,TRP分子の抗体を作成した。それと市販されている抗体を用いて,冷受容器の細胞体がある後根神経節を免疫組織化学的方法で染色した。また,in-situハイブリダイゼーションを用いて,mRNAの発現を調べた。 この方法で免疫染色できることが分かった。次年度は,食べ物の冷感を感じる口内にこの方法を適用し,神経終末に冷受容器が発現するかどうかを調べる。
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