Research Abstract |
本年度は,平成18年1月28日〜3月26日の期間,インド共和国において現地調査を実施しました。最終年度の調査として過去2年間の研究成果を補完し,今後に発展しうる課題を提示することを目的として,調査対象を選定しました。 具体的には,過去2年間において調査した,前2〜後2世紀ごろに造営された仏教石窟を様式的に継承する開鑿の事例に注目し,後3世紀以降造営のマハーラーシュトラ州南部のクダー石窟,マハード石窟,カラード石窟の調査に重点をおき,遺構略側や画像記録を中心とした基礎資料の作成を実施しました。この3つの石窟群は,先行する開鑿例が僧房と礼拝堂を個別に設けるのに対し,両者を一箇所に収める特徴を示し,それが後5世紀以降に再興される後期石窟で主流の型式となる点において,きわめて重要な開鑿例であるといえます。 また,これらの3石窟群に地理的・時期的に近接する,ケードやチプルーン,イェールファーレ,ポーハレー,ワーイー,シェーラールワーディー,バンダーラー,アンビヴァレー,ナードスルなどの小規模石窟群においても,類例調査を実施しました。これらの小石窟群は交通が不便であるため,看過されてきましたが,前・後期に分類される石窟寺院の造営時期と様式的特徴について,再検討を促す事例といえます。 また,前・後期窟の様式的影響関係を再考する必要性から,後期石窟の主要な開鑿例であるアジャンター石窟,エローラー石窟,アウランガバード石窟においても,基礎資料の作成を実施しました。これらの石窟群は,仏教のみならずヒンドゥー教に帰属する窟も含みますが,特に様式展開の面においては,同時代の独立した建造物(構築型)のヒンドゥー教寺院と相互に影響したことが知られます。このことから,カルナータカ州バーダーミ・アイホーレ,タミルナードゥ州ポンディシェリー・ティルチラパッリ郊外に共存して分布する,ヒンドゥー教石窟と構築型寺院も併せて踏査し,基礎資料を作成しました。
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