Research Abstract |
大脳基底核疾患であるパーキンソン病においては,レム睡眠の減少や睡眠時異常行動症候群などの睡眠障害が出現することが報告されてきた。これらの知見は基底核が運動や認知・学習などの機能に加えて睡眠の制御にも関与しており、そのメカニズムの破綻が睡眠障害を誘発する可能性を示唆する。平成15年度は,基底核が脳幹のレム睡眠誘発神経機構を介してレム睡眠の発現や調節に寄与している可能性を提示した.そこで本年度(平成16年度)は,大脳基底核からのGABA作動性出力がどの様にレム睡眠時の運動抑制機構の活動を制御するのかについて解析を試みた.実験には上位脳を離断した除脳ネコ標本を用いた.(1)大脳基底核の出力核である黒質網様部(SNr)の神経細胞活動を抑制するため,この領域にムシモール(GABA作動性物質)を微量注入すると,脚橋被蓋核(PPN)のコリン作動性細胞の興奮と筋緊張の消失が誘発された.(2)PPNに微小電気刺激を加えると,後肢の伸筋や屈筋を支配する脊髄α運動細胞の膜電位は過分極側に移行し,運動細胞の発射活動は抑制された.これに随伴して運動細胞の膜抵抗は低下した.また,PPN刺激は,Ia EPSPの振幅を減少させたが,その程度は膜抵抗の減少よりも有意に大きかった.(3)PPNコリン作動性細胞の賦活による運動抑制作用は,橋網様体細胞と延髄網様体の網様体脊髄路細胞の活動を介して誘発されることが明らかとなった.(4)SNrに微小電気刺激を加えると,PPNの刺激で誘発される運動細胞への抑制効果が低減し,PPNにGABAの拮抗物質であるビククリンを微量注入すると,このSNr刺激の効果はブロックされた.これらの成績は,コリン作動性投射系の賦活によるレム睡眠時の運動抑制は,α運動細胞に対するシナプス後抑制作用とシナプス前抑制作用の双方により誘発されること,そして,基底核からPPNへのGABA作動性投射がPPNのコリン作動性細胞の活動を調節することにより,レム睡眠時の筋緊張制御に関与することを示唆する.
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