Research Abstract |
2003(平成15)年度は,現代物理学を支える量子力学の解釈問題の研究を継続し,また,場の量子論の解釈問題を考察する目的で,その数学的体系について研究してきた.一般に,非相対論的量子力学における観測命題は,ヒルベルト空間の射影作用素(または閉部分空間)に対応すると見なされているが,連続スペクトルを持つ物理量の観測命題からなるブール束はω矛盾する.これを避ける1つの手法として,本研究代表者は,観測命題そのものを実数のボレル集合とみなす提案を,2003年11月の日本科学哲学会年次大会に於いて行なった.2003年9月には,故ボーム教授とともに量子力学の存在論的解釈を展開してきたハイリー教授が当研究室で講演し,有益であった.しかし,存在論的解釈も,いかにして相対論的量子力学の解釈に拡張するか,が未解決の問題である.20世紀初めの相対性理論による同時性の概念の相対化は,それまで客観的と思われていた概念の相対化であるが,われわれは,さら実在の概念の相対化を図る必要があるのかもしれない.量子力学における「波束の収縮」は実際に生じている事象のように思われる.しかし,これは,光速度が物理的作用の速度の上限を与えるという相対論的要請と衝突する.したがって,たとえば,実在を第1種実在と第2種実在に分けて,第1種実在は実際に観察可能な事象,第2種実在は実際に観察可能ではないが,なお実在と呼ばれるべき存在と考える.相対論の要請は第1種実在に関する要請と解し,波束の収縮は第2種実在として生じるとする.したがって,実在は,基準系から独立に現れる部分と,基準系に依存して現れる部分からなる,と考えるのである.この考えが,因果律など他の考えと整合的に展開できるか,第2種実在がなお実在の名に値するか,という問題の考察をさらに続けていく予定である.
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