Research Abstract |
日本の農村地域は,現在,とりわけ環境問題,食の安全性や健康性,あるいは田舎暮らしや定年帰農などに関わって,学問分野から政策や大衆メディア,一般の人々に至るまで,かつてないほど多くの人たちの関心を集めるようになっている。また,実際に農村地域に暮らしたり,レクリエーションやツーリズムに出かけたり,あるいはそこで起業したり,そこでの事業に投資したりする人は,着実に増えている。どのような場所の特性,すなわちロカリティが,これほどまでに多くの人たちを農村地域に惹き付けるのだろうか。本研究では,ここに農村地域の「農村」としての特性(=農村性)が関わると考える。多くの先進国では,第2次世界大戦後の農業・農村政策をずっと支配してきた生産(力)主義が崩壊し,「農村」の定義をめぐってポスト生産主義と呼ばれうる言説的状況にある。そういう状況下で,にもかかわらず,ある種の形式に収斂するような「農村」(のかたち)に関する支配的な構築は生き残り,むしろ,それはかつてないほどに明瞭になりつつある。そうした支配的な「農村のかたち」は,本研究では「牧歌的情景」と呼ばれるが,ロカリティ外部の,とりわけ大衆メディアや農村政策によって生産され,再生産され,普及される。また同時に,それは,実際そこに住む人たちの農村の場所に対する感覚,つまり場所アイデンティティや,そこで行われる生活や生産の実践と相互に密接に関わる。田園居住という最初の問題設定に戻れば,日本の文脈において注目されるのは,かつての農村生活の物質的・社会的後進性が少なくともイメージの上で希薄になるにしたがって,中山間地域と呼ばれる遠隔の農村地域が,例えば「多自然居住」という概念と結び付くことで再発見されるような動きである,と言える。
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