Research Abstract |
海水中の溶存バリウムは循環型の鉛直分布を示す.しかし,表層における粒子化と深層での再生のプロセスについては断片的にしかわかっていない.海洋中の元素分布間システマティズムを明らかにすることは国際GEOTRACES計画の重要な課題の一つである.本研究は,バリウム対ケイ酸塩/硝酸塩比の関係(Ba-Si/Nダイアグラム)に見られる直線的相関関係が,海洋全体で成り立つ関係であるか否かを検証することにある.これまでに大洋の海盆規模では,北太平洋(NP : WOCE P01rev. & P02 Sections),東部インド洋(EI : KH-96-5, PA Stns.),亜南極海域(SAA : KH-04-5, SX Stns.)および南極海(AA : KH-04-5,SX Stns.)において海水のBaとSi/Nの組成を調べた.また縁辺海海盆では,オホーツク海(OHT : KH-98-3, CM-6),日本海(JPN : KH-98-3, CM-12),南シナ海(SCS : KH-96-5, PA-11),スールー海(SLS : KH-96-5, PA-1),アンダマン海(ADM : KH-96-5, PA-10),タスマニア海(TSM : KH-92-4, SA Stns.)を調べた.それらの結果を回帰式で示すと次のようである. 1.大洋海盆 NP : Ba=2.1+32.4(Si/N), R^2=0.98 EI : Ba=33.5+18.4(Si/N), R^2=0.97 SAA : Ba=52.1+12.8(Si/N), R^2=0.96 AA : Ba=57.4+10.6(Si/N), R^2=0.92 2.縁辺海海盆 OHT : Ba=17.5+24.1(Si/N), R^2=0.97 JPN : Ba=30.8+15.2(Si/N), R^2=0.85 SCS : Ba=3.5+28.3(Si/N), R^2=0.99 SLS : Ba=24.3+17.5(Si/N), R^2=0.98 ADM : Ba=25.9+20.2(Si/N), R^2=0.99 TSM : Ba=32.3+23.2(Si/N), R^2=0.97 海域ごとにみれば,それぞれの回帰直線の傾きは北太平洋が最大で,南極海が最小である.このことは,北太平洋におけるバリウムや栄養塩の鉛直濃度勾配が南極海と比べて大きいためで,それだけ北太平洋の深層水が南極周極水と比べて古いことを反映している.このように,海水中のバリウム,硝酸塩,ケイ酸塩の3者の分布間には,大洋でも縁辺海でも,一定のシステマティズムが見られる.そのことは,Ba-Si/Nダイアグラム上の直線的関係に反映されていることが判った.このような関係は海水組成(3者の濃度関係)を表す一つの尺度である.同時に,このダイヤグラムは,古海水組成を復元するためのプロキシーとして,古海洋学の研究にも応用可能である.
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