Research Abstract |
極地から分離されたにコケに感染力をもつ土壌糸状菌について,形態的特徴とリボソームDNAの塩基配列を調べた。これまでに,北極のスピッツベルゲン島には,種レベルで異なる5つのグループの,また,グリーンランドとキングジョージ島とには2つのグループのピシウム属菌(土壌糸状菌の1属)が生息していることが明らかになっているが,今回新たに,ノルウェー山岳域にこれらの内の1つが生息していることがわかった。これまでの結果と合わせ,極地に広く分布する土壌糸状菌種の存在が明らかになった。これらの土壌糸状菌のほとんどが,試験管内での接種実験でコケに対する病原性を有し,また,生育適温が22〜28℃であることから,温暖化によって活性化し,極地の重要な1次生産者であるコケの生育に影響を及ぼす可能性が示唆された。 次に,極地のコケに生息する土壌糸状菌の動態に及ぼす温暖化の影響を明らかにするため,2005年7月にスピッツベルゲン島に滞在し,以下の野外実験を行った。健全なコケ群落上に15cm四方の正方形の区画を設置し,その上にガラス製チャンバーを設置し,年間平均温度を約1℃上昇させた。この区画から,コケの茎葉を無作為に抜き取って培地を用いて土壌糸状菌を分離しコケへの感染率を調べた。その結果,感染率はチャンバー設置の有無に関わらず4.0〜11.3%であった。同様の調査を2006年8月まで実施し,土壌糸状菌のコケへの感染率と,チャンバーによる温暖上昇との関係を調べる予定である。 上述の実験に加え,北極の主要植生の1つのムカゴトラノオに寄生する黒穂病菌が,宿主の生存に及ぼす影響をスピッツベルゲン島で調査した。その結果,黒穂病菌の感染によってムカゴトラノオの生存率が有意に低下することを明らかにし,その原因が黒穂病菌感染による宿主の低温環境や病原菌への耐性低下である可能性を指摘した。
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