2004 Fiscal Year Annual Research Report
親鸞の浄土観の成立および構造にかんする倫理思想史的研究
Project/Area Number |
15520018
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
宮島 磨 九州大学, 人文科学研究院, 助教授 (70241453)
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Keywords | 親鸞 / 浄土 / 三宝絵 / 発心集 / 閑居友 / 往相と還相 / 自利と利他 / 有縁 |
Research Abstract |
本年度は、親鸞の「化土」(="いろ・かたち"のある「有相」の浄土)の背景をなす通念的な浄土観の実質を、仏教説話集等を資料として検討し、併せてこれらのテキストにみられる他者観、衆生観を「自利」と「利他」という観点から読み解いて、親鸞の「往相還相」思想の成立背景を考察した。 主たる研究成果は次の二点である。 1 仏教説話集に通底する浄土観は、今生の人間界が有する諸々の快の要素を質・量の両面において極限化せしめる方向で構想されつつも、なおその限りにおいて今生の楽との連続性、すなわち"いろ・かたち"といった此岸性を残さざるを得ない。ここに親鸞がこれらの浄土を「化土」と見なさざるを得なかった所以があるが、にもかかわらずこうした浄土観は快の極限を想定し、その昇華をめざすという方向性において親鸞のいう-"いろもかたちもない"-無相の浄土への希求へと誘われ得る方向性を具えてもいることを究明した。 2 さらに説話集固有の問題として「自利」と「利他」の問題を、主に『三宝絵』と『閑居友』をテキストにして考察した。仏への志向性は、本来、他者をも仏へと誘うという意味で十全な利他性を具えておらねばならないが、これらの説話集においては、例えば仏陀の前世譚に代表されるように、今生の我が身が不可避に抱える諸制約を引き受けつつ、そうした課題に答えようとしていることを明らかにした。とはいえ、こうした姿勢は、常に我が身の器量の不十全さの自覚を伴わざるを得ず、親鸞のいう「還相」、すなわち浄土に往生し、-今生では不可得の-さまざまな器量を具えて初めて過不足なく他者を仏へと誘い得るという思想の下地的な意味を担っていたことを究明した。とりわけ、『閑居友』にみられる"有縁"という人間理解は、いわば「縁なき衆生」から「一切衆生」へと衆生観を拡充していく上での媒介をなすものであり、『歎異抄』に窺われる親鸞の人間理解にも通じる要素があることを指摘した。
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Research Products
(1 results)