2003 Fiscal Year Annual Research Report
日本人の倫理における現実への再生という観念の研究--中世の出家〓世の再検討
Project/Area Number |
15520023
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Research Institution | Kanda University of International Studies |
Principal Investigator |
窪田 高明 神田外語大学, 外国語学部, 教授 (80195502)
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Keywords | 倫理 / 遁世 / 隠遁 / 浄土 / 山岳信仰 / 修験道 / 再生 |
Research Abstract |
本年は研究の初年度であり、研究全般の基礎となる資料、概念の確認、関連づけを中心に研究を行った。平安時代末期から、鎌倉時代にかけての浄土信仰を背景にして遁世を行うものが多く出現した。彼らはじょじょに極楽往生に直結する遁世から、現実の中を生きていく存在としての遁世に重点を置くようになっていく。それにともなって、浄土教思想のあり方にも変質が生じていく。 重要な問題は、遁世という一つの概念で語られることの多いさまざまな行為が、その内実においては単一の特性では語り得ないということである。極端なケースとして、現世をすべて否定し、すべての他者との交際を絶ちきり、往生のための修行に邁進する者が存在する。しかし、その対極には名前こそ俗名から法名へ変わる者の、ほとんど在俗時と変換のない生活を送っている者がいる。さらに複雑なのは、伝統的な山岳宗教的な民間宗教者も遁世者と明確に区別できないことである。かれらは在俗的な生活と宗教的な生活を社会的に区別しているわけではなく、その両者を往還する生活を基本としている。 このような多用な遁世者を厳密に分類していくことは一つの方向ではある。しかし、それは限界のある作業であることも事実である。また、その分類を教理的な体系に即して行うことがはたして原理的に有効かという問題がついてまわる。遁世者の信仰がかならずしも教理体系に即して形成されているわけではないからである。 従来、注目されてこなかった点をとりあげれば、彼らの生活の現実を考えることがある。西行の勧進聖としての性格を指摘する主張がなされて久しいが、遁世の現実を重視する研究を進める必要がある。次年度は、遁世者が俗世との関わりの中でどのような生を送っていたかを考えていきたい。
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