2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520067
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 純 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (10251331)
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Keywords | アビ・ヴァールブルク / 形態学 / イメージ / 記憶 / 原型 / ゲーテ / 細部 / 美術史学 |
Research Abstract |
本年度は次のような成果を得た。 1.アビ・ヴァールブルクの図像アトラス「ムネモシュネ」に集められた図像の配置関係を個々のパネルについて重層的に解析する作業を進め、そこに形成されているイメージ記憶のネットワーク構造を分析する作業をさらに展開した。すでに全体構成としては明らかにされたその多次元的なネットワーク構造が、細部においてどのような解釈の可能性を孕んでいるかをより精緻に検証する作業に重点を置き、各パネル間の関係性の究明を進めた。 2.ヴァールブルクをはじめとして、19世紀後半から1920〜30年代にかけての文化科学諸分野におけるゲーテ的形態学の影響の背後に、個体発生と系統発生を結びつけて進化論を独自に発展させたドイツの動物学者エルンスト・ヘッケルの業績があることを見出し、19世紀以降の自然学、生物学における生命形態変化の理論的パラダイム(生命形態学)とその図像的表現が、イメージをめぐる文化科学的分析に深い影響を与えていることが明らかとなった。 3.ヴァールブルクのイメージ分析にはダーウィンの進化論思想が多大な影響を与えているが、ダーウィンを筆頭とする19世紀の生物学が、規則性を一目で明らかにする図像ダイアグラムの利用によって、進化論をはじめとする学説の展開と普及をはかったことを先駆として、自然科学の領域におけるイメージ生産こそが、文化科学的なイメージ現象の分析を変貌させた大きな要因であることが見出された。とりわけ進化論は、生物の長期的な変化の理論であるため、人間におけるイメージ現象の生物学的基盤の解明とともに、生命形態の変容可能性を図像化したことで、視覚的イメージをめぐる文化科学的研究や美術をはじめとする芸術創造にも影響を及ぼしており、この点の詳細な究明が今後の課題として発見された。
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Research Products
(20 results)