2005 Fiscal Year Annual Research Report
オーストリア小説を中心とする20世紀ドイツ語散文の言説分析
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15520144
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
原 研二 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (60114120)
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Keywords | ムージル / フロイト / ラカン / ルカーチ / 言説分析 / 物語 / 歴史 / 父 |
Research Abstract |
世紀転換期から第二次大戦後に至るオーストリアを中心とするドイツ小説の分析を進め、ルカーチ以後の西欧マルクス主義と、ラカンに至る精神分析の系譜をおって、それらの思想と小説テキストの関連性を考察した。またラカンの思想を応用したテキストの分析を、ゲーテの古典的散文において行ったが、それはこの研究の副次的成果である。 西欧マルクス主義の代表的思想家であるルカーチの場合、彼の『小説の理論』が提示する現代のロマーンにおける全体性の喪失は、『歴史と階級意識』において階級としてのプロレタリアートによって、再び全体性が見出されるという議論に直接連結していく。一方精神分析は、フロイトからラカンに至る線において、この全体性をより徹底的に解体していく方向に向かう。19世紀末から20世紀後半に至る時期において、ルカーチの例に見られる問題は、ムージルや、リルケの作品に顕著に表れる「父の死」の描写において文学的に形象化され、フロイトにおける「父親殺し」において思想的に形象化される。ルカーチの例に顕著なように、文学的な問題は、政治的な問題と密接に関係しており、その意味で、ムージルの処女作と、同時期のレーニンの思想的著作は、両者が共通した問題についての別個の解答の試みであったことを示している。これはリオタールの言う「大きな物語の喪失」と関連する問題であり、マルクス主義的言説が大きな物語の形成を念頭においていたとすれば、ムージルに代表されるオーストリア小説の試みは、はじめからそのアンチテーゼを提示する要素を色濃く持っていた。このアンチテーゼの線において、ラカンの思想の文学性の問題も捉えることができる。以上は、より一般化して歴史と物語の問題として捉えることが可能であり、それは、今日「歴史以後」の歴史家とみなされる19世紀の歴史家ブルクハルトにおいても、すでに顕著な問題であった。
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