2005 Fiscal Year Annual Research Report
マシャード・デ・アシスと夏目漱石〜対蹠地の同時代作家の近代化に対する共通意識〜
Project/Area Number |
15520158
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
武田 千香 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (20345317)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴田 勝二 東京外国語大学, 外国語学部, 教授 (80206135)
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Keywords | マシャード・デ・アシス / 夏目漱石 / ブラジル文学 / 日本近代文学 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、マシャード・デ・アシスと夏目漱石の作品の寓意性に焦点を当てて研究を行い、11記載の論文を発表した。以下に、それらの要約を記す。 武田は1904年に発表されたマシャードの後期に属する長編小説『エサウとヤコブ』を取り上げた。『エサウとヤコブ』では当時のブラジルの政治的および歴史的な事件が多数言及され、レアリズム的な作風がみられる一方で、プロット自体が非現実的であるなど、神話的な側面も見られる。2006年度に執筆した論文では、これまで別々に分析されてきたこれらの両側面を併せて考察し、それぞれの登場人物に与えられた寓意的な意味合いを明らかにし、この小説が近代国家ブラジルの建国神話に仕立て上げられていることを指摘した。だが、それはいわゆる"正統な"建国神話の構成基準からははずれるところがある。マシャードはそれを逆手にとった反・建国神話風に書き、ブラジルの近代化のプロセスへの批判を込めたと思われる。 柴田は、『それから』『門』『行人』といった夏目漱石の中期の作品を対象に、そこにあらわれている帝国主義の寓意的表象について考察し、雑誌・紀要に論文として発表した。これらの作品の背後にあるのは1910年に遂行された韓国併合であり、とりわけ『それから』『門』に共通する、「人のもの」である女性を奪い取って「自分のもの」にするという展開ないし前史は、明らかに「人の国」である韓国を植民地化しようとする日本の進み行きを表象している。そして『門』の主人公の妻御米に子供がいないのは、帝国主義の未来に「不毛」を見る漱石の批判的な眼差しを映し出している。『行人』では主人公一郎の妻は第三者から奪い取られた存在ではないが、一郎はつねに妻の「心」を不明のものとして猜疑しており、そこに併合関係がある程度安定した状況下で、あらためて浮上してきた朝鮮民衆の他者性を物語っている。 以上から、やはり両作家とも19世紀の自国の近代化のプロセスを批判的に捉え、それを寓意的に小説に織り込んでいることが明らかとなった。
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Research Products
(2 results)