2006 Fiscal Year Annual Research Report
マシャード・デ・アシスと夏目漱石〜対蹠地の同時代作家の近代化に対する共通意識〜
Project/Area Number |
15520158
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
武田 千香 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (20345317)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴田 勝二 東京外国語大学, 外国語学部, 教授 (80206135)
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Keywords | マシャード・デ・アシス / ブラジル文学 / 夏目漱石 / 日本近代文学 / ラテンアメリカ文学 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、マシャード・デ・アシスと夏目漱石の作品の寓意性について、とくに両作家の近代化に対する意識に焦点を当てて研究を行ない、11に記載した論文を発表した。また、今年度は本研究の最終年度にあたったため、これまでの研究の総括を行なった。 以下、本研究の各メンバーの今年度の研究成果の要約を記す。 武田は、マシャード・デ・アシスの遺作となった『メモリアル・デ・アイレス』を取り上げ、社会的寓意小説として再解釈を試みた。主要人物のトリスタン、フィデリア、カルモ夫妻にはそれぞれペドロ二世、皇妃イザベルにはリオデジャネイロの都市中間層が重ねあわされ、やはりこの小説もマシャードの当時のブラジル社会に対する批判意識が表われていることが明らかになった。しかし、その批判精神にはそれまでの4作品のような冷徹さはなく、政治そのものへの諦観とブラジルの未来に対する憂慮が感じられるものとなっている。武田は2003年より、マシャードの後期の小説を社会寓意的に再解釈する研究を行なってきたが、本論を以ってその取り組みが完了した。 柴田は、06年度はこれまでの夏目漱石に関する研究をまとめ、『漱石のなかの<帝国>-「国民作家」と近代日本』」と題して翰林書房より上梓した。また個別の論文としては、著書の一章をなす「未来への希求-『こころ』と明治の終焉」を「東京外国語大学論集」に発表した。これによって、明治期から大正期にかけての日本の帝国主義的拡張と、その時代を代表する作家である夏目漱石の表現との照応をかなり明確化できたと信じる。 今年度は本研究の最終年度にあたるため、武田がこれまでの成果をもとにマシャード・デ・アシスと夏目漱石の近代化に対する意識について比較・考察を行なった。この結果、当時両者の間にはまったく交流がなかったと思われるにも拘わらず、両文学の間には明らかに親和性があること、そして、それはおそらく当時ブラジルと日本が置かれてい共通する国際的な状況によるものと思われる。すなわち西欧化の波にさらされ、近代化という外圧のもとに急速に進歩を遂げなくてはならなかった非西欧に共通する課題や問題が両者の文学には、同じ寓意性という手法によって表現されていたのである。これについては本件の報告書および2007年度の『東京外国語大学論集』に掲載予定である。
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Research Products
(3 results)