2004 Fiscal Year Annual Research Report
西洋古典文学における「変身物語」と、近代西欧文学におけるその受容
Project/Area Number |
15520163
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
安村 典子 金沢大学, 自然科学研究科, 教授 (20293376)
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Keywords | 変身物語 / アントニーヌス・リベラーリス / オウィディウス |
Research Abstract |
西洋文学の中で、「変身物語」は特異な位置を占めている。紀元前1世紀の終わり頃に書かれたオウィディウスの『変身物語』が最も有名であるが、その400年ほど前、すでにギリシア文学の中で、神や人間の変身をテーマとする物語群が成立していた。本研究では、現存する最古の変身物語集である、アントニーヌス・リベラーリスの『変身物語』(紀元前4世紀)を取り上げ、研究を行った。本書はオウィディウスを始めとする多くの文学者に多大な影響を与えたにもかかわらず、これまであまり顧みられることがなく、これまでに日本語の翻訳書も出版されていない。そこで本研究ではまず、アントニーヌス・リベラーリスの『変身物語』の翻訳を試みた。 また、翻訳に際しては次のような視点を考察しながら、詳細な訳註を付けた。 (1)古代ギリシア精神のなかで、「変身」という概念がなぜ生まれたのか。人間を「死すべき者」と規定したギリシア人にとって、「変身」とはいかなる意味をもっていたのか。個としてのアイデンティティーは、変身後も維持されると考えたのか。 (2)オウィディウスは『変身物語』を作成するにあたって、アントニーヌス・リベラーリスの『変身物語』の影響をどのように受け、またそれらの伝統的な素材をどのような意図のもとに改変し、独自性を生み出したのか。 このような西洋古典文学における変身物語の概念や伝統が、後のヨーロッパ文学にいかなる影響を与えたのか、という問題に関しては未だ十分な考察が行われたとはいえない。今後の研究課題としたい。なお、本研究で行ったアントニーヌス・リベラーリスの『変身物語』の翻訳は、本邦初訳として近日中に講談社より出版される予定である。
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